鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「窓ぎわのトットちゃん」

単行本は1981年3月6日刊。文庫本は1984年4月15日刊。新組版は2015年8月12日刊。

いわずと知れたベストセラー本。国内900万部世界2500万部を売り、ギネスにも記録されているとか。

私も(あとがきで揶揄されているように)薄っぺらいタレント本の類かと長い間見向きもしなかったのだが、5~6年前にたまたま図書館で見かけて借りて読んでみてびっくりした。こんな内容だとは思っていなかったからだ。

先日書店で本書を見かけた。昨年、続編が刊行されたことや劇場アニメが公開されたことで再び話題になり、増刷がかかったのかも知れない。字が大きくて読みやすかったため購入して再読した。

本書はノンフィクションということだが、すぐれた児童文学になっているところがミソである。何事にも強い好奇心を持つ主人公の少女が、友だちや先生たちと様々な日常の冒険をする話なのだ。いわば、「長くつしたのピッピ」「赤毛のアン」の日本版だ。著者が「私は」「私が」と書かず、「トットちゃんは」と書いたこと、具体的で生き生きとした描写が効いている。教育書の側面もあり、親や教師で座右の書としている人もいるようだが、本質は「冒険譚」なのだろうと思う。

クラスメートの死とか、ロッキーとの別れとか、悲しいこともあるけれど、概ね楽しく充実した日々を送っていた主人公らの生活も、和終話で一転する。東京空襲が始まり、トモエは灰になってしまう。もっとも、その時主人公は既に疎開のため学校をやめていたが……

本当に、戦争はいろいろなものを奪っていく。戦後の復興で元に戻ったものもあるし、よりよくなったものも多いのだろうが、戻らなかったものもあるのだ。本書のもうひとつの本質は「戦争批判」だろう。

あとがきで著者は、「本が売れたのはいわさきちひろさんの絵のおかげ」と述べている。もちろん著者の文章が第一の理由なのは論を俟たないが、ちひろの絵も効果を上げているのは間違いないところ。

続編は文庫化されたら購入することにしよう。



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