鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「凶悪 -ある死刑囚の告発-」

内容はおおむね映画の通りだが、重要な点がふたつ、映画と異なっていたのでびっくりした。

映画では、主人公は死刑囚の言うことは信用するが、編集長が記事にすることを認めない。芸能ネタとか、もっと売れる記事を書けと言う。取材も禁止。主人公はこっそり取材を続け、裏が取れたところで編集長に「記事にしたい」と説得する。

本書では、死刑囚の言うことをそのまま受け取ることはできず、とにかく裏付け捜査を開始する。いろいろと裏が取れるに従って、彼の言うことを信用するようになっていく。嘘を言っているとは思っていなかっただろうが、記事にするからには裏付けが取れていなければいけないという姿勢が一貫している。ジャーナリストとしては、こちらが自然な考え方だろう。

また本書では、死刑囚や「先生」は普通の人とは違う特殊な人物であり、厳罰をくだされるのが当然であると著者は考えているが、映画では、普通の人との間には大きな違いはなく、誰もがきっかけさえあればこうした人間になる可能性があるのではないか……という立場で制作されていた。そこで重要になるのが、主人公の痴呆の気がある母親と、それを介護する妻の存在である。本書には妻も母も登場しない。

前者も後者も極めて重要な部分と思うが、ここをこれだけ変えてしまっていいものなのか。

凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)

凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)

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