鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

救いのない話。「ララピポ」

単行本は2005年9月27日刊。文庫本は2008年8月7日刊。連作短編。ひとつの長編とも読める。

蔵書の再読。あれ、奥田英朗ってこんな暗い、下卑た話を書く人だったっけ、と驚いたが、一気に読ませる。

各短編の主人公は、どの人も大いなるコンプレックスを抱え、自分自身や日常生活に嫌気を感じながら、夢や目標を持って努力したりするわけではなく、流されて生き、結果、どんどん状況が悪くなっていくさまが描かれている。どの話にも品のない性行為が描かれる上、ほとんどの主人公は犯罪まがいもしくは正真正銘の犯罪行為に手を出している。そういう意味では爽快感はなく、ジトっとした気になるのは確かである。

最初の短編で主人公に大きな影響を与える登場人物が次の短編の主人公、という構成で話が続いて行く。この続き方が絶妙。前作で、主人公がこうだと決めつけていた事柄に、別の人物から見ると別の側面があることが見え、ちょっとした謎解き気分が味わえると同時に、物事を一面だけで決めつける恐ろしさを感じさせる。最終話には第一話の主人公が登場し、話が輪廻になっていることが示される。ここで何ともいえないカタルシスが得られる。

第一話で主人公は付き合っている(?)女を殺してしまう。第二話で主人公は交通事故に遭って死に、第三話で主人公は火事になった自宅に夫を助けに入って夫婦とも焼け死んでしまう。……というように読めるのだが、最終話で、誰も死んでいなかったことがわかるのもありがたい。一方、第一話で男に騙され殺されそうになる純情可憐な女が、実は相当にヤバイ奴で、むしろ男を手玉に取っていたことがわかる。

第五話の主人公は、かつては売れっ子作家だったが、最終的にホームレスになってしまう。しかし、全話を通じてこの人間が一番しあわせだったのかも知れないと思わされる。という、誠に救いのない話ではある。

タイトルの意味は最終話で回収。とにかく、世の中にはいろいろな人がいるものだ。



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