- たらちねジョン「海が走るエンドロール」1(ボニータ・コミックス)
2021年8月16日刊。月刊ミステリーボニータ2020年11月号~2021年7月号掲載(隔月掲載)。
65歳、うみ子。夫と死別。久しぶりに映画館を訪れ、海(かい)という映像専攻の美大生と出会う。うみ子は海に指摘される。うみ子さんは、こっち側の人なんじゃないの? と……
その気になったうみ子は海の美大を受験し、入学する。同級生から「老後の趣味の自由時間ですか」と言われ、モヤモヤするが、自分でも「ただの老後の趣味だから」と言ってしまう。そこで海が怒るのがよかった。「そういう思ってもないことを言ってしまった時、後悔しないんですか」と。でもそれは、海の心も傷つけていて……
うみ子は海に言う。「私は、あなたで映画を撮る」。
好きなことに夢中になったりなれなかったり、自分の才能を確信したり絶望したり、周囲の才能に感動したり嫉妬したり、将来に不安を感じたり、仲間と語りあかしたり、孤独だったり、……そんなモヤモヤを抱え続けた若い頃、それは今も形を変えて抱え続けているのかも知れないけど、そういうところを刺激してくる作品。
主人公が65歳というのが斬新。もちろん皆無ではないが、これからはこういう作品が増えて来るか。少年マガジンや少年ジャンプが爆発的に売れるようになった、第一期の漫画ブームを支えた世代はもう60代後半から70代。ボリュームゾーンで購買力もある。そういう世代を常に主人公にしている弘兼憲史のような作家もいるが、彼の場合は主要な登場人物がみな同世代。本作はうみ子が若い人に交じっているのがいい。