- 原作・秋澤えで、漫画・桐野壱 「捨て悪役令嬢は怪物にお伽噺を語る」1(スクウェア・エニックス)
2022年2月7日刊。
最近は「悪役令嬢」ものというのもひとつの大きなジャンルを築いているようだが、典型パターンがどういうものかよくわからない。これもそのひとつか?
シルフ・ビーベルはラクスボルン王国の公爵令嬢、兄と両親と平和に暮らしていた。本が好きで、なろうことなら図書館の司書になりたいと思っていたが、公爵家の娘としてはそれはかなわず、ラクスボルン王国の王子ミハイルとの婚約が決まった。王子の妻として相応しい教養・礼儀を身につけるよう努めたが、ひそかに図書館に通い本を読むことはやめられなかった。
図書館でカンナ・コピエーネという物語好きな子と話が合い、仲良くなった。そのカンナはシルフの通う学校へ転校して来た。しばらくは仲良くしていたが、ある時、シルフから嫌がらせやいじめをずっと受けて来たとカンナから訴えがあったとミハイルから責められ、弁解しても信じてもらえず、さらにカンナを階段から突き落とした嫌疑もかけられた。理由は、カンナがミハイルと懇意にしていたから嫉妬したというのだ。
結局、シルフは断罪され、怪物が住むというダーゲンヘルム王国の森に置き去りにされた。が、……
ダーゲンヘルムには怪物などは住んでおらず、通りかかったダーゲンヘルムの王ファーベルに救われる。ファーベルの計らいでシルフはダーゲンヘルムの平民として図書館で働くことになる。物語好きなファーベルのためにいつでも語り聞かせをすることに条件に。
ファーベルに気に入られたシルフは、本だけではなく、芝居に連れて行ってもらったり、おいしいものを食べさせてもらったり、しあわせな生活を送ることになる。
シルフは純真で真面目な少女だが、カンナに陥れられる。カンナは「シルフにいじめられた可哀想な私」を演じることで同情を引き、追放されたシルフにとって代わってミハイルとの婚約が決まったようだ。話の中ではシルフが悪役令嬢に仕立てられるが、読者にとってはカンナこそが悪役令嬢だ。
なぜ、何の証拠もないのにカンナの言い分を皆が信じ、ミハイルだけでなく友人や家族までもがシルフを非難する側に回ったのかはわからない。本巻では焦点はそこではなく、殺される運命にあったシルフが隣国の国王に助け出され、気に入られ、しあわせな生活を送るようになるところがポイント。これもまた一種の「なろう物語」であろう。
ただしファーベル王は、シルフにとっては今のところ「いい人」だが、根っからの善人には見えない。シルフのことを気に入っているから優しく接しているが、これから先はわからない。

