鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「女装からはじまる恋の仕方」全7巻

  • くろたま「女装からはじまる恋の仕方」1~7(完結)

発行はソルマーレ編集部、発売は1巻が2021年4月20日、7巻が2021年8月19日。全7巻というが、1巻に1話ずつ、30ページ強なので、これで普通の単行本一冊分である。連載中に小出しにするのは(それができるのは)電子書籍の魅力だが、電子書籍も冊数が増えた時の管理が恐ろしく面倒なので、普通の(厚い)単行本も出してほしいと訴えたい。

ひとつ前の記事で女装男子の分類を試みたが、本作は新しいパターンだ。

北大路景は成績はトップスポーツ万能、見目麗しく家はお金持ちとすごいスペックでファンクラブもある。この景が小林亜子を好きになり、告白したが、「無理です、ごめんなさい」と言われ逃げられてしまう。

そこまで嫌われているのかと傷つきかける景だが、実は亜子は中学生の時の痴漢体験がトラウマになり、極度の男性恐怖症になっていた。男性が近寄るだけで鳥肌が立ち、脂汗がにじむ。本人は恋もしたいしいずれ結婚も夢見る少女なのだが、いざ男性を前にすると身体が拒否してしまうのだ。

その事情を知った景が、見た目が女性なら大丈夫なのでは? と思い、女装して亜子に近づいていく、という設定である。

亜子は、自分のためにそこまでしてくれた景を、当然好きになり、周囲の好奇心の目、学校側からの抑圧、父親からの叱責など、さまざまな苦労を二人で乗り越え、信頼関係を深めていく。

ギャグ漫画でもあるし、ハッピーエンドの恋愛漫画でもある。が、景の目的は本来、亜子のそばにいたい、そのためには女装も厭わない、だったはずなのに、終盤では男性姿の景と一緒でもじんましんが起きなくなった亜子を前にして、「女装ありき」に変わってしまっている。単に馴れたのか、それとも目覚めたのか? あっさり終わるため、いろいろ解釈ができる。この余韻がいいと思った。

作者の名前は(絵柄も)初めてかと思ったが、「妖怪雨女による神隠し」「拾って隠れて育てた生き物が思っていたのと違う件」の作品の作者と同一人物だった。驚き。



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