2011年3月20日刊。短編集。「小説家の作り方」「コンビニ日和!」「青春絶縁体」「ワンダーランド」「王国の旗」「ホワイト・ステップ」収録。
すべて東京の文善寺町という町が舞台になっている。潮音という読書好きの女性は全編に(時に名脇役で、時に端役で)登場し、冒頭の小説家・山里秀太は最終話に再登場する。一方、内容はかなりバラエティに富んでいる。連作短編とはいえない。
あとがきによると、読者応募の没原稿を乙一がリメイクする企画だそうだ。バラエティに富んでいるのもうなずける。
「ホワイト・ステップ」のほのかな恋物語が心に刺さった。いや、本作はむしろ親子の情愛を描いたハートウォーミングストーリーというべきだろう。近藤裕喜と渡辺ほのかは、別に恋愛をしているわけではない。それでも、顔も容姿も年齢もわからない、ただ足跡しか見えないはずの二人が、信頼を寄せあって「冒険」する様子(この状況下では一緒に郵便局へ行くだけでも相当な冒険だろう)には心がときめいた。二度と出会うことはないだろうが、二人にとって、この数時間の出来事は一生忘れられないのではないか。案外、翌年の冬に「再会」するかも知れないが。