中学一年生の時、級友から「これ、面白いから読んでみろよ」と言って貸してもらったのが本書。これが僕の初の星新一体験だった。星新一という作家の名を、それまで知っていたかどうか、記憶にない。その当時は北杜夫が好きで、マンボウの虫だった。北は星と親しかったから、エッセイなどで名前が出ていたかも知れないが、作品は読んだことがなかった。
一読してたいそう驚いた。なんと表現していいかわからない。要は「奇妙な味」である。こういうタイプの小説を読んだことがなかった。そして、たちまち惹き込まれた。
星新一の作品は「SF」なのだそうである。この分類には強い違和感を持った。宇宙人が出てくる話もあるし、タイムマシンその他、超科学を利用した道具も登場するが、SFとは違うだろうと思った。SFは好きな分野のひとつで、その年齢にしては幅広く読んでいたと思うが、当時はアシモフの「銀河帝国の興亡」やウエルズの「宇宙戦争」、ベルヌの「海底二万マイル」、あとはハインラインなどのジュブナイル版を読み漁っていたのだから、やむを得ないところではある。
久方ぶりに再読し、依然として「奇妙さ」を感じることに安堵した。冒頭の「椅子」から引き込まれる。なぜそういうことになるのか、説明がない。ないけれども、ありそうな気がする。あってほしいとも思う。他にもさまざま。作品は古びていないし、自分の感覚もまだ錆びついてはいないようだ。