鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「ようこそ地球さん」

「ボッコちゃん」と対になる初期作品集。アマチュア時代の習作(をリライトした)「小さな十字架」や商業デビュー作「セキストラ」、また、異色の長いショートショートである「処刑」などが含まれる。

全体としての雰囲気は「ボッコちゃん」より好きだが、全体的に文章が洗練されていない点は同じ。「ボッコちゃん」と同時期の作品群だから、その点は致し方ない。

なお「探検隊」という作品は、この作者としては例外的に時事風俗に密着した作品である。1959年の南極からのタロ・ジロ生還のニュースに触発されて書かれたもの。「あとがき」でこの経緯に触れ、「いまは、これだけの解説をつけないと、なんのことやら理解しにくいのではないだろうか」と記している(あとがきの記述は1972年)。

少年時代に読んだ際は、タロ・ジロ事件の知識は一応持っていたので、なるほどと思ったが、現在再読して見ると、むしろこの事件のことを知らない方が、普遍的な作品として読めるのではないかと感じた。

たとえば、自分は職場のことを連想した。ある小さな会社に、親会社から新しい社長が派遣されてきた。その人は腹心の部下を連れてきた。その人はなかなかよい社長であり、組織をうまくまとめ、社員からの評判も悪くなかった。が、短期間で本社に呼び戻され、あとには腹心の部下が残った。その部下は、元の社長が本社へ戻ると、権力をふりかざして社員に無茶を押し付け、勝手のし放題。最初は我慢していた社員も、いい加減に限度に達したころ、元の社長が再び赴任されてきた。社員たちは社長に不在の間に部下がどんなにひどいことをしたか訴え、叱りつけてもらおうと思ったのだが、社長は社員の言うことに耳を貸さず、部下の手を取って、「今までよく一人で頑張ったな、ありがとう」と言う……

立場が変われば価値観が変わるということである。時事風俗に密着したと作者自身が思った作品であっても、作品自体が骨のあるものであれば、いつまでも色褪せることなく、事件が忘れ去られても、新たな魅力を発揮するものなのだ。それが再確認できたのは興味深かった。



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