文庫書き下ろし。2013年9月4日刊。連作短編集。「喪服の女王陛下のために」「スフレの時間が教えてくれる」「星空と死者と桃のタルト」「最後は、甘い解決を」の四編所収。
なお、本書は「難事件カフェ」と改題され、光文社文庫より2020年4月に再刊、「難事件カフェ2」が同じく光文社文庫より2020年5月に刊行されている。
警察官だった惣司智は、突然勤めを辞め、兄みのるの経営する喫茶プリエールでパティシエとして働いている。が、智の資質を惜しむ本部長は退職届を受理せず休職扱いとし、秘書の直ちゃんこと直井楓を喫茶店に派遣して迷宮入りしそうな難事件の解決に協力を要請する。そして智が名探偵の能を発揮して事件を解決する、という展開である。
事件の発端が異様で、いったい何が起きたいのか? と思わせておいて、それを鮮やかに解決して見せる展開は見事で、夢中になって読んでしまった。特に最終話は全体の話の落ちにもなっており、読者のよそうもしなかったどんでん返しがある点は「育休刑事」と同じ構図だ。
ただ、気に入らない点もいくつかある。
当初、智は事件に関わることを嫌がる。理由はともあれ警察を辞めた人間だ。それに本業も暇ではないわけで、当然ではあるが、直井は、もし引き受けないとこの店を潰してやると脅しをかける。これはヤクザの手口だ。もっとも、第一話で関わった弁護士の的場莉子を智が憎からず思うようになり、第二話は的場からの相談で始まる。それならいいかと思っていたら、最終話ではある件に関して嫌がる直井をみのるがこれまでの違法捜査をネタに脅迫するシーンがあり、これでチャラだな、とは思った。しかし、冒頭の嫌な感じがしばらく残るのはいただけない。その上、智が辞めた理由は最後まで明かされない。そのため、智は本当に厭なのか、単に面倒なだけなのか、本当は厭でもないのか、判断がつかない。
第二話のアリバイで、被疑者のレストランのレシートに刻印された時刻が問題になった。このレストランは、食事が終わった後で会計をする店なのだと漠然と思って読んだ。つまり、その時刻に店を出て現場まで行かれるのかどうか。ところが読み進むと、ドトールやスタバのように、まず会計をしてそれから店で食べる形式の店なのだとわかった。だとしたら、それから食べる時間が加算されるから、話が変わって来る。ミスリードのために意図的に隠したわけでもなさそうで、ちょっと(いや、かなり)もやもやした。
最終話のラストは「三角屋根の不思議なお店は、今日も悩めるお客様の来店を待っている」で締められている。これを読んでのけぞった。一貫して智は、捜査に関わりたくないけれど、(直井に脅されて、的場にほだされて、……)やむにやまれず関わっている態度を崩していなかったのに、なぜラストの一行でそれを裏切るような説明になるのだ。あの人、なんだかんだいうけど結局引き受けてくれるっスよ、と直ちゃんが言うのならわかるが、そうではない。人の悩みを解決してこそおいしく召し上がっていただけるのだから、とか何とか悟りを開き、開き直って探偵業を始めたならその説明がほしいところだ。