鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

原作の「悪人」はもっと救いがない

映画「悪人」の原作を読む。最近、映画を観てから原作を読むパターンが多い。

尺が違う関係で映画化の際にいくつか飛ばされたエピソードがあったが、全体としてはかなり原作を忠実に視覚化した感じである。ただし大きく違うのは、原作では、保険外交員の石橋佳乃が絞殺され、犯人は土木作業員である、ということが冒頭で提示されていることだ。ミステリーでいう「倒叙」である。石橋佳乃が登場しても、あ、この人、あとで殺されちゃうんだ、と思って読むと、かなり不気味だし、祐一の側からすると、警察がいつどうやって自分にたどりつくのかを(読者といっしょに)ビクビクしながら過ごすことになるわけで、この方が優れていると思う。

映画では、佳乃がいったいなんなのかがわからず戸惑ったし、佳乃が殺された後も、犯人は増尾圭吾か? と視聴者をミスリードさせるような展開もあった。どうせ予告編ではあれだけバラしまくっているのだから、本編でもそうすればよかったよ思うが、なぜこうした改変をしたのかは不思議。

そのほか、本編を見ていて意味がよくわからなかったことが、原作を読んでよくわかった、というのもいつも通り。映画しか見ない人もいるのだから、説明を省くのはどんなものかと思う。たとえば、事件のあと光代が職場復帰できたのは、祐一が、人を殺す時に性欲を感じる、光代も殺すつもりだった……と自白したため、世間が光代を被害者としてみてくれたからで、これは光代への愛なのか? 迷惑をかけたくないという責任感ゆえなのか? 光代はそれを信じたのか? というあたりに本作の真髄があると思うのだが、ちょっと解せない。もっとも、最後に祐一が光代の首を絞めようとした場面が、映画的には強い印象を与えるから、それですべてを語ろうとしたのかも知れないが……

映画のラストで、二人で夕陽を眺めるシーンは本当によかった。原作は映画より救われない。

悪人(上) (朝日文庫)

悪人(上) (朝日文庫)

悪人(下) (朝日文庫)

悪人(下) (朝日文庫)

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