鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

吉田秋生の最高傑作「海街Diary 6 四月になれば彼女は」

すずの遺産相続の件で四姉妹がすずの親戚に会いに行った時、「子どもの耳には入れたくないことがあるから」といって、実際の話はしゃちねえと佳乃が相手方と話をしたのだけど、佳乃がしっかりした受け答えをして、シャチが「コイツ最近役に立つわ」とつぶやくシーンがある。それを読んで、あーこれまでしゃちねえは、何があっても誰にも頼れずずっと一人で決めてきたんだろうな、と改めて気づかされた。佳乃が成長して、ようやく頼れるようになったのかな。確かに佳乃は、第一巻の頃に比べると大人になったかも。

その後、しゃちねえと佳乃と二人で飲みに行く場面があるけど、もしかして二人で飲むのはこれが初めてだったんだろうか。どうせならあんなご近所さんじゃなくて、普段行かないような店へ行ってみればよかったのに。

その二人飲み会の時に、「こんなはずじゃなかったって思ったこと、ある?」と訊かれた幸は「その連続だ」答えるが、こうも続ける。「でもね、最近悪い意味ばかりじゃないかなって思ったわ。こんなはずじゃなかったけど、別の見方や考えがあるんだとか、それまで見えなかったことが見えてきたりとか」……これって、これこそがこの作品のテーマなのではないだろうか。「海街Diary」は、当初から、人や事件(出来事)を、ある一面からだけでなく、別の側面から見たら別の見方、捉え方がある、というように意識して輻輳的に描いてきている。それをまさに言い当てたのがこの幸のセリフなんだろうな、と思う。

佳乃は上司の坂下課長への気持ちを自覚。しかし、「恋の狩人」と呼ばれ、「狙った獲物は逃がさない」などと豪語している割にやり方がへたくそだ。飲みに誘うのに、「飲みたい気分なんでしょ? つきあいますよ、あたしでよかったら」って、ここは「あたし、今日は飲みたい気分なんです。つきあってもらえませんか?」と誘わなきゃダメ。つまり、オレは本当は帰りたいんだけど、この子が飲みたいって言うから、付き合ってやらないといけないのかな、というように相手に言い訳を作らせるわけだよ。そーゆーのがテクニックなんだ。それから「都市銀時代に何があったんですか?」と訊いた時も「そんなふうに言ってもらえただけで元気でました!」と外されるけど、誰が乗っているかわからないバスの中でそんなことを訊いたって答えるはずがない(ペラペラ答えるようなら銀行マンとして失格)。それこそ飲みに行って、それもテルの店とかではなく、ちゃんと個室のある店で、そこで初めて話ができる。

これまで佳乃が狙った獲物を逃がさずにこれたのは、単に美人でしかも若かったから、というだけだったんだろうな。しかも、結婚する気がなくて単に(セックス込みで)付き合うだけなら、女から言い寄られたらたいていの男は落ちるかも知れないけど、坂下課長のようなまともな男はそんなんじゃダメだってことだ。

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