鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「1・2の三四郎2」6(最終巻)

本作を読んで引き込まれるのは、五頭が三四郎を誘いに来るところだ。再起を懸けた五頭は、苦労して三四郎を探し出し「俺が闘った相手の中じゃおめえが最高のプロレスラーだった」と言い(第二回)、拒絶した三四郎をなおも誘うべく再訪して居留守を使われた時は「おめえがどう思ってたか知らねえがオレはおめえのことを親友と思ってた……」とつぶやくところだ。

五頭は、三四郎に鼻を折られたため女性ファンが激減し、ゾウリムシ呼ばわりされ、心底憎んでいたはずだ。その後三四郎新東京プロレス所属となり、アメリカ遠征に出るまでの約三年半ほど、五頭と同じ組織で活動していたことになる。この時どういう付き合いがあったかはわからないが、いい関係が築けていたことが想像される。五頭は、一時的には感情的になっても、力のある人に対しては素直にそれを認められる、度量の広い人だということもわかる。前作ではあまりいいところのなかった五頭だが、そして本作でもプロレスラーとしてはいいところがないままなのだが、僕の中では株が一気にストップ高なのである。

そしてまた最終回が感動的だ。失礼ながら小林まことは最終回の作り方があまりうまい作家ではなく、最後が印象的な作品というとあまり思い浮かばないが、本作は別格である。

アマレスチャンピオンと闘うことになったほたるのスパーリングの相手を五頭が買って出るが、五頭は腰を痛めて試合のできる身体ではなかった。そんな五頭さんなんか瞬殺してしまうと言うほたるに、「遠慮なく瞬殺してくれ」と言いつつも、「もし俺が勝ったら……オレと結婚してくれ」と言うのだ。そして五頭は渾身のへろへろジャーマンスープレックスを仕掛ける……。

この時の二人のやりとりと試合結果は、何度読んでも感動する。本作の(表の)主人公は三四郎だが、五頭はもう一人の主人公だといえる。性格は男性の登場人物の中で一番(というか、もしかしたら唯一)まともであり、いい奴なのである。それが本作の魅力だ。

なお、本間ほたるはレスリングを始めて日が浅く、普通に考えてアマレスチャンピオンと互角に闘える立場ではないはずだが、練習中の様子を見ると見事なブリッジを見せており、短期間でかなり腕が上がったようである。



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(2020/6/15 記)