鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「目黒さんは初めてじゃない」1

  • 9℃「目黒さんは初めてじゃない」1

こういう話、ありそうでなかった、と思う。自分が知らないだけか? 似たような設定はあったかも知れないが、ここまで徹底されているのはなかったのではないか。

冴えない高校生男子、古賀君は、可愛くて胸が大きい目黒さんに思い切って告白。あっさりOKしてもらう。玉砕覚悟だった古賀君は、戸惑いながら付き合おうとするも、友達すらあまりいない古賀は、どのように付き合っていいかわからない。あまつさえ、目黒さんは初対面でいきなり「私、処女じゃないですよ」と言い、次の日には「私の経験では、二日目は家かホテルなんですが、行きますか?」などと無表情で口にするため、ますます古賀君はどうしていいかわからない……

経験豊富なクラスのアイドルとコミュ障の童貞坊やとの付き合いなんだけど、この彼女は、いったいどんな風に育ってきたのか、これまでどんな男と付き合ってきたのか? 自分のやりたいことや行きたいところ、食べたいものなどは特にない。付き合うというのは、相手の望むことをしていれば相手が満足する、それで十分だと思ってきたという。そして「私の話を聞きたがる人はいなかった」とも言う。その一方で、「誰かとお付き合いをしていてもつまらない思いをさせてしまう」とも言う。

そりゃそうだろうと思う。可愛いし、性行為に抵抗がないから、そりゃ最初は男は喜ぶ。しかしこのような性格の女と付き合っても、「誰かと付き合っている」ことになるのか。あっという間に飽きてしまうだろう。だから、付き合いは長続きしない。それでも可愛いからすぐに彼氏の候補は出る。それで傍から見れば「男をとっかえひっかえしているビッチ」に見えるというわけだ。

変わっているというより、歪んでいると言った方がいいくらいだが、古賀君の純粋な気持ちに触れ、能面のような表情のない目黒さんが、時折笑顔を見せるのだ。これがとてつもなく可愛い。

9話と10話の間に目黒さんの中学時代の初恋(恐らく)のエピソードが入る。この時は、ちゃんと相手を好きだという気持ちに自覚的であるが、この相手がとんでもないクソ男だった。その影響をモロに受けてしまったということか。目黒さんは良くも悪くもものすごく素直なのだ。相手の気持ちをきちんと受け止めることができる。

そのため、古賀君が、不器用だけど本気で目黒さんのことを考え、目黒さんに喜んでもらおう、目黒さんに楽しんでもらおうと考えていることはちゃんと理解し、受け止めている。ぜひ、長続きしてほしい。古賀君と一緒にいられれば、目黒さんも少しずつ自分を取り戻せるのではないかと思う。

非常に素晴らしい作品だが、ひとつだけ。著者名は「くど」と読むらしいが、こういうペンネームをつけてよいかどうか、さるまんを読んで出直してこい、とだけは言っておきたい。


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(2020/7/1 記)