鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「僕はまだ野球を知らない Second」1

  • 西餅「僕はまだ野球を知らない Second」1

本作は「僕はまだ野球を知らない」の直接の続きになる話である。

第一話では宇佐監督が実父に会う。宇佐監督の父親のことは前作でも触れられたことがあるが、いわゆる体育会の権化のような人で、野球部の監督としては実績があるが、宇佐監督は嫌悪している。父親に対する反発が現在の宇佐監督を作ったひとつの要因のようだが、こういう形で登場させたら、父親の率いるチームと対戦させないと収まりがつかないだろう。かなり壮大な話になりそうだ。

第二話では、水巻に続く第二・第三投手である入谷奨馬・蒼馬のツインズ君の物語。同じようなフォーム、同じような威力だったが、蒼馬は徐々に差が開いて来ていることを感じる。自分でいろいろ考え、試している奨馬と、監督から言われたメニューを律儀にこなしている(だけ)の蒼馬との差に見えるが、蒼馬は「投げたい」という情熱の差ではないかと感じている。その合間に長い怪談話(ギャグパート)がはさまれる。このギャグは西餅独特のもので、過去の作品を知っている人には楽しめるが、ストーリーの進行は妨げられるな……。

第三話では、OBたちへのお弁当やお茶出しを保護者(主に母親)が分担しましょうか? という申し出を宇佐監督が断わるところから始まる。「大人なんだから、そのくらい自分で用意できる」というセリフがいい。その根底には「保護者の負担が大きいスポーツは競技人口が減ってしまう、悪しき習慣はせめて自分たちだけでもやめていきたい」ということがある。しかし、監督やOBの世話は論外としても、スポーツ技能の向上と食事管理は切っても切れない関係であり、食事管理となると親の協力は必要不可欠となる。宇佐監督は、親が忙しいなどでまともな食事を作ってくれない人を自分の家に住まわせるという方法で強引に解決させたが、「おおきく振りかぶって」のモモカンもそうだけど、監督が一方的に負担を引き受けるやり方もまた、長続きしないと思う。

二試合目の目黒戦が始まる。準備がうまくできて序盤から相手を圧倒。

第四話は蒼馬の成長物語。試合は奨馬が先発し、8点リードしたところで蒼馬がリリーフするが、うまく相手を押さえられず、再び奨馬が登板。試合は8-1で7回コールド勝ちを収めるが、蒼馬は自分がちゃんと投げられなかったことを悔しく思い、「ちゃんと投げたい」という気持ちを自分でも気づかないほど強く持っていたことに気づく。そして監督にフォームを変えていいか相談。もともとツインズ君のフォームが似ている(しかし微妙に違う)ため、連続して投げさせて相手を幻惑させるのが宇佐監督の作戦だった。フォームを変えればただの別投手になる。宇佐監督の答えは明快。「選手のモチベーションにまさる戦略なしですよ」。

宇佐は「もっと速い球が投げたいんじゃないかと思っていました」と訊き、蒼馬は、監督はちゃんと見ていてくれていると感激するが、宇佐は蒼馬がこれまで悩んでいたことに気付いておらず、たった11人しかいないんだから、もっとちゃんと見なきゃと反省するという、興味深いシーンもあった。

本作は「僕はまだ野球を知らない」がモーニングtwoでの掲載を打ち切られたため、自費出版で発行したらしい。なんとも痛ましい話だが、そうまでして書き続けたいという作者の意志を感じる。なんとか本が少しでも売れて、作者に還元されてほしいと思う。