鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「僕はまだ野球を知らない」1

  • 西餅「僕はまだ野球を知らない」1

前作「ハルロック」は名作だったが、その後2年近くも作品が発表されず、ようやく出てきた本作はモーニング本誌ではなくモーニング・ツーで、ちょっとがっかりした覚えがある。モーニング・ツーは購読していないから、単行本が出た時に一冊は買ったのだが、あまり面白くなくて放り出してしまった。

ところが先日、久々に「ハルロック」を読み返し、続いて本作を読んでみて、非常に面白かったことに驚いた。

浅草橋工業高校の物理教師・宇佐智己は、野球は大好きだがプレイの経験はない。前監督の病気休養に伴い野球部の監督に就任、セイバーメトリクスを駆使して弱小野球部を強くしよう、と奮闘する話。経験、勘、思い込み、偏見などで凝り固まった世界に合理的な考え方を持ち込み、反発と闘いながらも結果を出していく……

この作品の面白さを、なぜ以前は気づかなかったのか。恐らく、この絵柄でスポーツ漫画を描くのは無理だと思い込んだこと(これは確かに事実だけれども)。それから、当時はセイバーの面白さがわかっていなかったこと。

ここ数年の野球界の話題として、子供の野球離れが急激に進んでいることがある。少子化だから仕方ない、サッカーの方が人気があるから仕方ない、というレベルの話ではなく、旧態依然とした野球界に若い人が反発を感じていることがクローズアップされており、例えば筒香嘉智などは改革の必要性を盛んに述べていたのは記憶に新しい。

自分がそういった動きを知ったのはここ2~3年だが、問題提起自体はもっと以前からあったのか? 2017年の時点でそれを巧みに取り入れているところが素晴らしい。

もうひとつ、「おおきく振りかぶって」という作品を知ったことも大きい。ここの監督は女なのに誰よりも野球がうまい設定だが、身体が大きくて運動神経の発達した人が活躍する(「ドカベン」など)という単純な話ではなく、猛練習に次ぐ猛練習でうまくなっていく(「キャプテン」など)根性物語でもなく、練習も試合運びも合理性を追求し、弱小チームが強くなっていく展開の先駆的存在と考えられる。本作はこれをうまく受け継いでいるように思う。


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