鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

吾妻ひでおの新作「地を這う魚」は怪作

漫棚通信が絶賛していたため、さっそく購入。

吾妻ひでおがまた変化していた。もっとも、「ふたりと5人」で吾妻を好きになり、「パラレル狂室」にも「不条理日記」にもついていったワタシはこの程度の変化は受け入れられるが、傑作といえるかどうかは疑問。

吾妻ひでおの「まんが道」については、もともとは奇想天外社から出た単行本のあとがきに4ページでまとめた傑作があった(ちゃんと壁村さんも登場したし、松久由宇もいた)。その後、例の「失踪日記」に収録された「街を歩く」の12~14で少し詳しく描かれている。

デビューが少年サンデーの欄外のミニ漫画であること、それをゆきみちゃんと分担してたこと、喫茶店でアイデア出しをやっていて、ゆきみちゃんが隣の席の女の子を怒鳴ったこと、伊藤君が隣の部屋の学生と喧嘩になってアパートを追い出されたこと……などは、みなここに出てくる話であり、正直なところ、ネタの二度売りの感を免れない。

だからこそ、普通の世界ではなく、クラゲが空を飛び魚が地を這うシュールな世界として描き、自分の顔も従来の似顔絵とは雰囲気を変えているのだろう。ただ、なぜこの世界では人間は若い女の子だけなのか、工場で作っているドドとかグズリとかはなんなのか、そのあたりは全くわからない。

もちろん、いいところもたくさんある。

板井れんたろう氏のところでアシスタントをしていた時の給料が安く生活に追われた……あたりの描写はリアル過ぎて笑えない。このあたりを恨みに思って、あまり板井氏のことを好きではないのかなと思ったが、板井氏は若い吾妻らの勉強になるかと、他の(一流の)漫画家に会わせたり、編集者から厳しい注文を出されたのを聞いて、「これから伸びる芽なんだから、あんまりうるさく言わないで自由にやらせてやってよ」ととりなしたり、作品が雑誌に載って有頂天になっているのを見て「1作2作掲載されたからってプロになれたわけじゃない」とピシャリと言ったり、実に弟子思いのいい先生である。これは今回初めてわかったことだ。

自伝系の「まんが道」だから、吾妻ひでおファンなら迷わず買うべきだ。吾妻ひでおと言われても特に作品が思い浮かばない人(もしくは「失踪日記」を思い浮かべる人)は、読んでも理解できないだろう。

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(別ブログより転載/original : 2008-03-12)