本作は2014年末から「ヤングアニマル」にて連載が始まったようである。大河ドラマ「真田丸」の放映が2016年。大河で取り上げることを意識してのものだろう。
若き日の真田昌幸が描かれる。従って昌幸の父の幸隆や兄の信綱、昌輝なども登場する。信綱、昌輝は知らなかったがかなり勇猛な武将だったようだ。また、「武藤昌幸」として活躍するさまも描かれる。「真田丸」で真田昌幸と徳川家康が初めて会うシーンで、家康が「昔、武藤昌幸なる武将に散々な目に遭った。ご存知か」と訊かれ、自分は武田家の外様だから武田臣下の武将はよく知らないなどととぼけるシーンがあったが、本書を読んで初めてその凄さがわかった。
武田勝頼の凄さも十二分に描かれる。一般に勝頼は愚将として描かれることが多く、「真田丸」で初めて優れた武将として描かれた、と思ったが、その少し前に、既に本書に描かれていた。武藤昌幸や武田勝頼の活躍を描いたものは非常に珍しく、これは特筆すべきと思う。
しかし種々の事情で武田はどんどん落ちぶれていく。そして浅間山の噴火。このあたりからドラマ「真田丸」が始まる。そして昌幸は勝頼を岩櫃城へ連れて行こうとするが、勝頼は小山田信茂の言に従い、岩殿城へ向かう……
ドラマ「真田丸」では、わざわざ勝頼を連れて行きながら小山田信茂がなぜ裏切ったのか理解できなかったが、これも本書を読んでわかった。勝頼を連れて行けば、そこを織田軍に狙われる。一族郎党が壊滅してしまうのである。そこに気づいて、最後の最後で身内の命を優先させたということだろう。もし勝頼が岩櫃城へ入ったとすれば、真田一族もそこで終わったかも知れないのだ。