鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

人生とは自分が演じたいキャラクターを演じること

明野照葉は、昨年「ひとごろし」を読んで以来、注目しており、まずは既刊の作品を読んでしまおうと目に留まったら買っているところである。ただ、彼女の作品は病的な気味悪さが漂う作品が多く、あまり立て続けには読みたくない。

本書はこれまでに読んだ明野作品の中では完成された作品という印象を受ける。主人公の君島沙和子は、いそうでいない、いないけれどもいそうな人物である。自分に都合の悪い人を何人も殺める冷血な殺人鬼なのだが、不思議と読後感は悪くない。

沙和子は、自分が理想とする人物を思い描き、その人物像を演じようとし、事実、完璧にそれをやってのける。作品に描かれるほど完璧に演じ切ることは普通の人には難しいが、方法論としては、少なくない人間が実際にやっている手法なのではないかと思う。事実、僕にもそういうところはある。演じている自分を舞台監督のような立場で外から眺めてみる、というように自分を客観視できると、多くのものごとはうまくいくことが多い。沙和子はそれがミスなくソツなくできているというわけだ。

その人物像に行き詰ってしまった時に「リセット」をかける、というのが後半の山場である。

現実にも、借金を抱えて夜逃げをしたり、犯罪を犯したりして、リセットせざるを得ない人というのはいるだろう。沙和子の場合は後者に当たろう。ただし、リセットで厭なことからは逃れられるかも知れないが、よりよい生活を送ることはできない。なぜならば、これまで生きてきて自分が積み重ねてきたこと、特に人間関係を全部捨て去らないといけないからだ。

女神 (光文社文庫)

女神 (光文社文庫)