鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「ワル」全13巻

1970年~72年に「週刊少年マガジン」に連載された作品。よくもまあこういう作品が掲載されたものだ。今なら絶対マガジンには載らない。

1970年の少年マガジンといえば、「あしたのジョー」にさいとう・たかをの「無用の介」、石森章太郎の「リュウの道」、永井豪の「キッカイくん」などの魅力的な漫画が目白押し。毎週欠かさず読んでいたから「ワル」も目にしていた。すさまじい話だなあとは子ども心に感じたが、断片的に読んだのみでちゃんとしたストーリー展開を知らなかった。単行本も書店では見なかったし、コンビニ本として再刊されることもなく、従って通読することもかなわないまま50年が経った。

10年ほど前にkindleで出ていることを知り、大人買いした。紙での再刊は割りに合わないが、電子書籍なら元が取れるという判断だろう。ぜひとも昔の作品でとっくにお蔵入りになっているものを、電子書籍で陽の目を見せてほしい。

改めて通読してみると、氷室洋二の剣の腕の冴えと頭の回転の早さは確かにすごいが、徹頭徹尾、感情移入できるところがない。恐らく彼の行動原理は、原作者である真樹日佐夫の信念なのだろう。こういう人が近くにいたら怖くて仕方がない。ワルだけでつるんで好きなことをやっているなら構わないが、一般生徒にもたびたび干渉してくるのだから危ない。

氷室が一目置いた人間は、皆大けがをするか、死ぬ。むろん、氷室がけがをさせたり、死に追いやったりするわけである。こんな毒々しい話がほかにあろうか。もっとも、梶原一騎の作品も、主人公は皆、再起不能になるか、死ぬ。そういう意味では共通すると言えなくもない。

氷室の関わる女性が、みな氷室に惚れてしまうというご都合主義は笑える。しかし、氷室自身は誰かを好きになったことがなさそうだ。なんだかんだで美杉麗子のことは気に入っているようだが、愛しているのとは違うだろう。そういう意味ではやはり、不幸な男である。


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