鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「神への生贄に捧げられた少女の話」

  • 矢薙「神への生贄に捧げられた少女の話」

2020年5月6日刊。短編集。134ページ。

表題作は、日照りが続いたために神に生贄としてささげられた少女の話。受け取った神が言う。

しかしなぁ……生贄が必要と我が思われているのにわりと傷ついたしこんな子ども捧げるとか引くわ……

日照りのせいなら雨降らせるよ、と言って雨を降らせる。失礼ながら、なぜ今まで雨を降らせなかったのですか? との質問には「ごめん寝てた」。なかなか楽しい神なのだ。

ほのぼの系ハートウォーミングコメディ、とでもいうか? 残酷な描写は一切なし、結末に向けて一切ブレない。確実にほっこりする作品。



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「夢中の彼女」

  • 矢薙「夢中の彼女」

2020年9月1日刊。64ページ。

ソウジは毎晩夢を見た。それはだいたい10年後くらいの自分で、職業は様々だが、常にユイという新婚の妻がそばにいること。早寝を心掛け、夢の中の生活を楽しみにしていたが、ある時、ユイが殺人を犯した場面に居合わせてしまう。ユイというのは架空の人物ではなく、実在する人物で、その人も毎晩同じ夢を見ているのではないかと気づいたソウジは、この夢は10年後の予知夢ではないかと考えた。そこでユイの殺人を阻止するため、ソウジは――

なんとも奇想天外かつダイナミックな物語だ。いろいろ怪しいところがあるが、意外と辻褄は合っている。事件を阻止するため、ソウジ(とユイ)が取った行動が素晴らしい。結構やばいタイト・ロープだったと思うが、トラブルなく渡り切ったのは、少々ご都合主義だが、スピード感が勝っている。

このような育てられ方をした子は、心にいろいろと傷を負っていて、作中のユイのように明るく素直ではいられないのではと思うが、これは「夢の中のソウジ」の存在が大きかったのかも知れない。母親がどうなったかも気になるところだが、うまく話が付いたと考えるべきだろう。

最後はもちろん現実にソウジとユイが結ばれて終わる。二人が恋人として付き合い始めたのは、いつからなんだろうな。



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「没落お嬢様を拾う話」

  • 矢薙「没落お嬢様を拾う話」

2022年3月9日刊。66ページ。

マモルは大富豪の堂道家で執事として働いていたが、そこの家の娘ヒナを女性として意識するようになってしまい、そのような邪な心を持っていては執事が務まらないと退職を決意。その直後、堂道剛毅が不正融資、所得隠しなどで逮捕されるという事態に。ヒナは家にいられずマモルのアパートに避難してきた。同居生活が始まるが……

実はヒナもマモルのことが好きだったというよくある話なのだが、展開はぶっ飛んでいる。ぶっ飛んではいるけれど、二人の互いを思う気持ちはピュアで美しい。前半がマモル視点で展開し、後半がヒナ視点で話が畳まれていく構成も見事。



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「友達だった2人が付き合って0日で結婚を決めた話」(既刊3巻)

  • えむふじん「友達だった2人が付き合って0日で結婚を決めた話」1~3

1巻は2024年1月8日刊、2巻は2024年1月19日刊、3巻は2024年2月23日刊。もともとはブログで無料公開されていた作品。1巻は187ページ、2巻は59ページ、3巻は63ページ。

えむふじんの子育て・日常生活を描いたブログは大人気で、自分もよく読んでいる。三人の子どものキャラクターがそれぞれきちんと立っている上に、オチの付け方がうまい。その上よほどのことがない限り、ほぼ毎日更新されている。人気が出るのも頷ける。

本作は、作者が夫である「えむもとえむし」と知り合ってから結婚を決めるまでの経緯をまとめたもので、過去作の中でも屈指の人気シリーズだったと記憶している。kindle本になったと知ったので改めて読み返してみたが、とても面白い。

話は終わっていないから、まだ続編が出る、のだと思う。期待して待とう。



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「戦国小町苦労譚」10

  • 原作・夾竹桃、平沢下戸、作画・沢田一「戦国小町苦労譚 農耕戯画」10(アース・スターコミックス)

2021年12月10日刊。「デジタル版コミックアース☆スター」2021年6月~10月掲載。

静子が持ち込んだ武器は、①カプサイシン(辛み成分)爆弾で、目や鼻、口などの粘膜につけば耐え難い苦痛を与え、②ロケット花火で、当時の人には聞き慣れない炸裂音で攪乱し、③通常の矢、以上の波状攻撃で浅井勢を集団ヒステリー状態に陥らせた。矢尻にはカビや雑菌を付着させ、軽い傷でも致命傷にさせるもの。

人を殺すのにきれいもきたないもないかも知れないが、静子の戦法は正直なところ、かなりダーティーなものだ。だが、勝たなければ意味がない。ある意味、静子は腹を決めたのだろう。

姉川の合戦では織田優位に進み、浅井・朝倉を退けたが、織田軍の被害も大きかった。さて、次は大好き、宇佐山城の戦いである。重要な一戦の割に、意外と省かれがち。大河ドラマ麒麟がくる」でも描かれなかった。史実では浅井朝倉連合軍に延暦寺の僧兵を合わせて約3万、守る森可成は約1000、これで森は討ち死にする。が、それを食い止めんと、静子勢7500がここに加わった。

戦いが始まる。これまで静子は、武器を制作したり、助言をしたり、その結果大勢の人を死に追い込んだかも知れないが、自らの手で人を殺したことはなかった。が、この戦では直接何人もの敵の武将を倒していく。これも、これまでから変ったこと。静子勢は大軍を前に優位に進めていたが、大軍ゆえに簡単には片が付かない。ついに敵が盛り返し、静子勢が劣勢に追い込まれる。それを助けるために森勢が加勢するが、森は打ち取られてしまう。やはり歴史は変わらないのか……



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「戦国小町苦労譚」9

  • 原作・夾竹桃、平沢下戸、作画・沢田一「戦国小町苦労譚 農耕戯画」9(アース・スターコミックス)

2021年7月12日刊。「デジタル版コミックアース☆スター」2021年1月~5月掲載。

これまでも静子の行動で歴史は変わってしまっていたのだろうが、目に見えるものといえば史実では二日かかったはずの戦が一日で終わった程度の違いで、少なくとも静子の理解・観測では大きな変化は起きていなかった。

本巻では大きな変化が起き始める。信長の朝倉攻めにおいて浅井の裏切りを進言し、それが聞き入れられた。そこで信長は朝倉侵攻の前に長政にお伺いを立て(その過程で久政が反信長の首謀であることがあぶり出され)、朝倉攻めはいったん中止される(その結果「金ヶ崎の引き口」は起きない)。

その後久政は謀反を起こして長政を追い詰めるが、事態に気付いた静子が長政を庇護し、お市とその子も救出、久政軍は壊滅状態となった。長政は妻子とともに信長のもとに身を寄せることとなった……

まあ、細部が変わっただけで、浅井朝倉と織田陣営の対立という構図が変わったわけではないが、それでも、これまでよりは大きく変化が起き始めた。これは静子にとっての正義だが、このことが今後どのような影響を与えることになるのか。

姉川の合戦。史実では織田陣営も大きな被害を被るが、静子は織田方の被害を最小限に抑えたいと考えた。そして小型ロケットのような武器を持ち込むが……?



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「投手論」

2013年4月1日刊。

少し前に「プロ野球 vs メジャーリーグ 戦いの作法」という本を読んだが、その前にさらに本を書いていた。注文して届いたのでさっそく読む。

自身のエピソードだけでなく、チームメイトも含めた興味深いエピソードにまじって、投手にとって一番大事なのはコンディションを整えること、といった信念や、日本では~のように教わるがアメリカでは~のように言われる、これはアメリカの方が正しい、といったピッチング理論に関するあれこれ。

とても興味深い本である。

メジャーに行くためにFA宣言をした時、日本のチームからも誘われた。条件が一番よかったのがジャイアンツで、4年12億と言う提示だったが、メジャーを選んだエピソードは重要。結局メッツに入団したが条件は20万ドル(2400万円)。本人も「ショックだった」とは書いているが、それでもメジャーを選んだわけだ(翌年は二年500万ドルの契約になったそうだから、ジャイアンツと同じにはなった)。

大谷翔平が25歳になる前にMLBへ行き、日本で2億7000万だった年俸が、2018年は54.5万ドル(約6000万円)、2019年は65万ドル(約7000万円)と低く抑えられたことに、25歳を過ぎてから行けばもっと高額の契約ができたのに、と批判する人が少なからずいたが、なんでそんなもののために二年待たないといけないの? と思ったものだったが、吉井も「お金がすべて」ではなかった。こういう点がむしろプロらしいと思う。

プロ野球 vs メジャーリーグ 戦いの作法」と重複するエピソードが多い。まあ、一年で二冊、同傾向の本を書いたのだから致し方ない。二冊出す必要あった?