鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「戦国小町苦労譚」8

  • 原作・夾竹桃、平沢下戸、作画・沢田一「戦国小町苦労譚 農耕戯画」8(アース・スターコミックス)

2021年2月12日刊。「デジタル版コミックアース☆スター」2020年8月~12月掲載。

本巻で静子は獅子奮迅の大活躍。

  • 水車型洗濯機
  • 旋盤
  • シュリヒテン剥皮機(植物から繊維を分離する機械、従来の数十倍の速さで麻糸の生産が可能に)
  • ケプラー式望遠鏡の開発にも目途
  • 磁器
  • 清酒

などを続々と開発。また近衛前久の協力を得て正親町天皇に数々の贈り物をし、「従四位上」の位を賜る。料理では、まずいと言われたじゃがいもを食用として提示、生醤油の開発とともに鶏肉じゃがという料理も発明(?)。そのほかパンを焼き、プリンを作る。

他の転生組は

  • みつおは琉球からアグー豚を持ち帰って来た。ついでに島津貴久の娘を妻として連れて帰った
  • 足満は、織田の北畠戦で、敵の領土で田畑の土壌を壊して飢饉を起こさせ、また疫病を流行・拡大させ、戦力と士気を削ぐなど暗躍

ひとつひとつは、やろうと思えばできることかも知れないが、理解者(平成の知識・経験を持っている人)もいない中、ひとつ成功させるだけでも膨大な時間と手間が必要であると思われ、同時にというのは非現実的を通り過ぎている。現代のわれわれが普通と思っていることは、当時は普通ではないんですよ、現代の技術があれば当時で無双できますよ、ということを示している(に過ぎない)のだろう。その分、静子にはあまり人間味が感じられない。

それに対してみつおと足満の方は現実的だ。が、本巻ではとの活躍の場は少なかった。

静子の存在は武田信玄上杉謙信北条氏康らの耳にも入り、狙われるようになる。そればかりか、静子の重用を面白く思わないものは織田陣営にもいた。木下秀長もその一人……



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「戦国小町苦労譚」7

  • 原作・夾竹桃、平沢下戸、作画・沢田一「戦国小町苦労譚 農耕戯画」7(アース・スターコミックス)

2020年9月12日刊。「デジタル版コミックアース☆スター」2020年3月~7月掲載。

本巻での静子の活躍は、

  1. 京料理が口に合わない信長に味の濃い田舎料理を出して好評を得る
  2. ルイス・フロイトキリスト教の布教許可を進言
  3. 近衛前久(さきひさ)を織田陣営に引き込む
  4. 脚気の人を治す

1は史実かどうかは知らないが有名なエピソード。料理漫画にそのパロディが描かれたこともある。ここでは信長が「料理人の腕がいいのはわかっている。静子は食べる人の立場に立った料理だ」と喝破したところが読ませた。

2は、フロイトの前で金平糖と有平糖の解説をしたのはよくなかったのでは。信長に教えるならこっそり教えればよかった。人前では驚いてみせるべきだった。

3は、信長の命ではなく自身の判断で行なったことが画期的。農作物の育成や機器の発明(?)においては平成時代の知識・経験をもとにどんどん積極的にコトを行なっていたが、政治的な面で動くのは初めてのはず。人を動かすのは簡単ではない。まして若い女性であればなおさら。歴史の知識から「こうした方がいい」とは判断できても、行動にはなかなか移せないもの。実に大胆だが、物語が大きく動いて来た。

近衛前久は「麒麟がくる」では本郷奏多が演じた破天荒貴族。

4の脚気は、ちょうど朝ドラ「ブギウギ」でもタイ子がかかって死にかけた事件とシンクロする。薬うんぬんより正しく栄養を取ることで劇的に改善するようだ。

さて、信長の再開発構想により静子の村は解体された。これがどういう意味を持つのか? 

足満の正体が明らかに。タイムスリッパーだったのでは、という予想は当たったが、なんと、足利義輝だった。なるほど、剣の達人であったのも頷ける。例の政変で死んだと思われていたが、死ぬ直前に静子の世界に記憶喪失になって飛ばされたようだ。その足満を助けたのが静子であり、そのため足満は静子に対し恩義を感じ、一命を賭して尽くすつもりでいる。静子が織田家の発展を願うのなら、自分も手を貸すというわけだ。

足満はただものではないと感じ、喪失した記憶を取り戻させたのが濃姫というのも興味深い。濃姫が足満こと義輝を信長に紹介したところで終わり。

「ほかにもタイムスリッパーがいた」「そのタイムスリッパー同士が出会って何かが起きる」というのは「信長協奏曲」でもそうだったが、足利義輝とは、一番の大物なのではないか。これから物語はどう動くのだろうか?

「窓ぎわのトットちゃん」

単行本は1981年3月6日刊。文庫本は1984年4月15日刊。新組版は2015年8月12日刊。

いわずと知れたベストセラー本。国内900万部世界2500万部を売り、ギネスにも記録されているとか。

私も(あとがきで揶揄されているように)薄っぺらいタレント本の類かと長い間見向きもしなかったのだが、5~6年前にたまたま図書館で見かけて借りて読んでみてびっくりした。こんな内容だとは思っていなかったからだ。

先日書店で本書を見かけた。昨年、続編が刊行されたことや劇場アニメが公開されたことで再び話題になり、増刷がかかったのかも知れない。字が大きくて読みやすかったため購入して再読した。

本書はノンフィクションということだが、すぐれた児童文学になっているところがミソである。何事にも強い好奇心を持つ主人公の少女が、友だちや先生たちと様々な日常の冒険をする話なのだ。いわば、「長くつしたのピッピ」「赤毛のアン」の日本版だ。著者が「私は」「私が」と書かず、「トットちゃんは」と書いたこと、具体的で生き生きとした描写が効いている。教育書の側面もあり、親や教師で座右の書としている人もいるようだが、本質は「冒険譚」なのだろうと思う。

クラスメートの死とか、ロッキーとの別れとか、悲しいこともあるけれど、概ね楽しく充実した日々を送っていた主人公らの生活も、最終話で一転する。東京空襲が始まり、トモエは灰になってしまう。もっとも、その時主人公は既に疎開のため学校をやめていたが……

本当に、戦争はいろいろなものを奪っていく。戦後の復興で元に戻ったものもあるし、よりよくなったものも多いのだろうが、戻らなかったものもあるのだ。本書のもうひとつの本質は「戦争批判」だろう。

あとがきで著者は、「本が売れたのはいわさきちひろさんの絵のおかげ」と述べている。もちろん著者の文章が第一の理由なのは論を俟たないが、ちひろの絵も効果を上げているのは間違いないところ。

続編は文庫化されたら購入することにしよう。



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「朝日のようにさわやかに」

2010年5月28日刊。表題作「朝日のようにさわやかに」を含む全14編の短編集。

蔵書の再読。といっても、ほとんど記憶にない。当時は買っただけで読まなかったんじゃないだろうか。

近年は短編集といっても連作短編が多く、連絡ではなくても雰囲気が似たものを集めたもの(「カタブツ」とか)も多く、本書のようにあちこちで発表した短編が一冊分になったから出しましたという、テーマも文体も様々な作品を寄せ集めた短編集は久しぶりだ。そもそも恩田陸の作品になじみがない。その上作品ごとの差が大きいから戸惑いもあった。

いや、統一テーマがないこともない。それは「さわやか」な作品がひとつもないこと!

「プロ野球 vs メジャーリーグ 戦いの作法」

2014年4月16日刊。

こういう本を読みたかったの。著者自身がどのような選手生活を送っていたのか、また、同僚の選手や監督、コーチなどのエピソードがわかるようなもの。とても面白く読んだ。

「最高のコーチは教えない。」を読んだ時、吉井は冷静な人なのかと思い込んでいたが、仰木監督に言われて腹が立ち、監督室の机をひっくり返したことがあるとか、かなりの激情家なのだと知って驚いた。本書では、メジャーでも監督に殴りかかろうとしたことがあるなどのエピソードが出て来る。すごい人だ。

MLBでは通訳なしだったこともあるようで、英語には苦労したというが、それで仕事がきちんとでき、生活もできたのだからたいしたものだ。

「戦国小町苦労譚」6

  • 原作・夾竹桃、平沢下戸、作画・沢田一「戦国小町苦労譚 農耕戯画」6(アース・スターコミックス)

2020年4月11日刊。「デジタル版コミックアース☆スター」2019年10月~2020年2月掲載。

義昭を奉じて上洛した信長は京の治安維持のため警ら隊5000を置き、その総指揮を静子に命じる。現代の「技術」はあまり関係なかったが、生真面目で思い悩む可児才蔵に、「完璧を目指すよりまず終わらせろ」という、マーク・ザッカーバーグFacebook創始者)の言葉を贈ってよい方向にまとめたのが、現在の「知識」を生かしたことになるか。ひとこと言っただけで人が変わるなら誰も苦労はしないのだが。

とにかく信長の京での人気は鰻登り。そんなところへ仕官を希望してきたのは、前巻最後に登場した、静子のことを知っているぽい男二人(足満、みつお)だった。職人として採用されたが、これに五郎を加えた三人を濃姫が専属の料理人として連れて行ってしまう。濃姫は(静子の作った)本来この時代にはないはずの野菜を与えて料理を命じ、命じられた男はさくさくとチャーハンを作る。

ところで本作ではたびたび米が出て来たが、それは赤米か黒米だったらしく、静子はようやく白米の育成に成功。信長に試食してもらい、量産の許可をもらう。

静子の自宅に濃姫が、足満、みつお、五郎の三人を連れてやって来る。足満は、静子がかつて家族同然に接した足満おじさんだった。みつおの乗っていたバスが事故を起こし、その場に足満と静子が居合わせた。その時にタイムスリップが起きたらしい。

足満は記憶喪失の間者で、気の毒に思った静子の家が引き取って一緒に暮らしたとのことだが、もしかして足満はもともと戦国時代に人間で、タイムスリップで現代へ行ったのでは……?

静子の提案で、二人は料理人ではなく、みつおは織田領で展開する畜産の牽引を、足満には神主をやってもらうことになる。その了解を取りに足満が濃姫のところへ行くと、濃姫は問いかける。お前は静子と同じ世界から来たというが、静子とは異質なものを感じる、と言う。静子が知らないか、知っていても使いたがらない知識を、足満が持っているのではと。それは、人を殺す技術――

タイムスリッパ―が他にいて、その人たちが接触し始めると物語が大きく動く。これは「信長協奏曲」でもそうだったが、今回はもともとの知り合いだった。その上、多重タイムスリッパーの疑いも!?



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「平和の国の島崎へ」5

  • 原作・濱田轟天、漫画・瀬下猛「平和の国の島崎へ」5(モーニングコミックス)

2024年3月22日刊。発売日に即、購入。

SATAと名乗る少年が本巻の主人公だ。祭りの日にお神輿を担ぎたいと申し出て断わられ、何とか町に溶け込みたいと、ボランティアでゴミ拾い活動を始めるも、迷惑だからやめろと言われてしまう。次に壁の落書きを消そうとするが、自分で描いたのではないかと疑われる。何やらかわいそうだが、本気でゴミを拾って町をきれいにしようと思っているわけではなく、そのため掃除をやめると掃除用具をそこら辺に捨てていく。そういうところを町の人は見ているので、信用されないのである。

島崎は彼らに見捨てておけない何かを感じ、何かと親切にしてやる。SATAも島崎には懐く。

実はSATAらはLELの下部組織に所属し、戦闘員としての訓練を受けているのだった。子どもだけで地元のヤクザの事務所に殴り込みに行くことを命令され、少数の少年だけでヤクザを壊滅させてしまう。が、ヤクザ組織にバレて、さらわれてしまう……

島崎はSATAにかつての自分を見た。SATAに関わると自分も危険だし、周囲も危険に巻き込むリスクがあるのは承知の上で、彼をほっておくことができない。島崎は彼を救えるのか。

島崎がだんだん人間性を取り戻していくところが泣けるが、彼は本当に近い将来戦場に戻ってしまうのか。