鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「不死身のパイセン」(全1巻)

  • 田口翔太郎「不死身のパイセン」

「裏バイト」の前に出した単行本で、これがデビュー作になるようだ。

女子高生、先輩と鬼龍院の二人が部活を終えて一緒に帰宅するところから始まる、一種のシチュエーションドラマ。

台風が過ぎてから、町に異様な空気が漂い、一人で帰るのが怖くなった先輩は、親睦を図るためとか後輩に助言するためとかいろいろ言い訳を散りばめ、鬼龍院を誘う。先輩を尊敬する鬼龍院は、事情を察しているが、誘われたことを光栄に思い、ついていく。冒頭のシーンは毎回お約束のギャグだが、その後は必ず異形の者が登場し……

「異形の者」の不気味さが群を抜いていて、それが素晴らしい。先輩が「異形の者」に襲われるところで話が言わるという話の作りがホラー。「異形の者」の正体が(第5話を除いて)明かされず、どういう末路をたどるのかも描かれない。毎回襲われる先輩は、かなり危険な目に遭っているはずだが、次の回では何事もなかったように元気で健康な姿を見せる(6話の冒頭を除く)のもホラー。

そして第7話では、先輩を尊敬し先輩に忠実で、毎回先輩を守ってくれた強い鬼龍院の正体が判明する。これが最大のホラー。

とにかく次の展開を予想させないという点が優れている。「何が起きるかわからない」のはよいホラーの証だ。

一話が短いのもいい。畳みかけるように話が展開し、え? と思った時にはもう終わっている。スピード感がうまく欠点を隠している。

暗い道を一人で歩けなくなるとか、夜寝られなくなるとかいうわけではない。話は不気味だが「気持ち悪くはない」のは僕の好みに合っている。