- 山内規子「ワイルド・グリーン」(ビーグリー)
紙版は1998年3月刊。電子版は2017年刊。ぶ~けに掲載された作品なのに、集英社は電子版を刊行してくれないんだなあ。こんなにいい話なのに。
Wikipediaには項目がないが、はてなキーワードにはあった。それによれば本作は第二作品集ということになる。収録作は「ワイルド・グリーン」「ラブアンドマネー」「リラックス」の三編。発表年は不明。
表題作はとてもよくできた作品。篠原千春、冬香、秋絵の三つ子(?)は顔はそっくりだが性格はまるで違う。冬香は工藤明と、秋絵は花村光平と、そして千春は津山と付き合うことになるが、工藤、花村、津山がそれぞれ友人であることから問題が起きる……
この三人の正体はすぐに想像がつくが、この三人にはもう一人夏美という姉がいた。夏美は10歳の時に亡くなっている。その死の真相が……
千春、冬香、秋絵の描き分けと、それぞれを好きになる男たちの描き分けが見事。それがきちんとできているからこそ話に入り込める。工藤が、千春でも秋絵でもなく、冬香に惹かれるのはわかるなあ。
夏美の死の真相にたどりつくまでの経緯は、とてもよくできたミステリー&サスペンスである。そこにドタバタコメディがまぶしてあって、決して深刻な話にならず、読後感がいい。
山内規子の作品は、必ずといっていいほど、超自然現象あるいは超能力的なものが登場するが、本作にはない。初期の作品では必ずしもそうではなかったのか。もっとも冬香、秋絵の存在は、ドラマなどでは定番ではあるが、どちらかというと「不思議な現象」に属することかも知れない。
「ラブアンドマネー」はコメディ色が強い。本人にしか見えない小さな女の子が小夜子の進むべき道を導く。
「リラックス」は気功師が主人公。作中で気功の存在を信じる人と信じない人が登場しトラブルを起こしたりするので、ちょっと現実路線である。水紀と有久がベッドの中でこんなこともあんなこともしたことをちゃんと描いているのも好感が持てる。「そういうこと」をこれみよがしにわざわざ描くのは好きではないが、といって、大人の恋愛なのに、避けて描くのも不自然である。描くべき時は描けばいいと思う。