鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「腕の中で眠って」

  • 山内規子「腕の中で眠って」(ビーグリー)

紙版は2005年10月、あおば出版刊。電子版は2018年2月刊。はてなキーワードによれば、第五作品集ということになる。収録作は「腕の中で眠って」「腕の中に抱きしめて」「腕の中の恋人」「ユートピア」「大きな木の下で」「瞳を閉じて」の六編。発表年は不明。

「腕の中で眠って」「腕の中に抱きしめて」「腕の中の恋人」は連作短編。恐らく、「腕の中で眠って」を発表したところ、評判がよかったため、続編を描いたという流れではあるまいか。初めから三部作の予定だったとは思えない。表題作はよく練られた緻密なストーリーで、完結度が高い。続編はちょっととってつけたような感があり、最終話は完全なラブコメディになってしまった(それはそれで面白いが)。

沙都は幼い頃に両親を病気で亡くし、祖母に引き取られるが、強盗に襲われて祖母と愛猫を亡くす。その現場を沙都は見ているはずだが、あまりにショックを受けたためか、当日の記憶が全くないのだった。

沙都は伯父夫妻に引き取られ、その家の息子・要と兄弟同様に暮らすが、要が事件当日のことを「無理に思い出さない方がいい」としつこく言うため、要が犯人なのではないかと気になり出し……

もちろん要が犯人ではなく最後に二人は結ばれるんだけど、記憶を徐々に取り戻していく過程と沙都自身が新たな事件に巻き込まれていく様子、冒頭の伏線も効いて、サスペンスフルな見事な物語になっている。

事件当日、時系列順に何が起きたのか少々わかりにくいが、ていねいに読み返せばわかる(もっとも、ここは「わかりにくい」とクレームがついたせいか、続編では「ここまで描かなくても」というくらいていねいに説明がなされていた)。

謎が解けると、要がなぜ沙都を好きなのかもわかる。

沙都の初体験の状況が割と露骨に描かれて、ここまで描かなくてもとは思ったが、変にぼかすよりは好感が持てる。

「転生」が登場する点が山内規子らしい。

「大きな木の下で」は「恋愛タイムトラブル」に収録されたものと同一作品。「恋愛タイムトラブル」のあとがきで「以前、絶版になった別コミックスに収録されていたもの」とあったが、それが本作というわけか。電子版で復刊したため重複が生じたということね。

第一短編集「一億年の封印」(1997、集英社)も電子版で復刊しないかなあ。

初出一覧

作品名 掲載誌 出版社 掲載号
腕の中で眠って サクラミステリー あおば出版 2003年2月号
腕の中で抱きしめて サクラミステリー あおば出版 2003年5月号
腕の中の恋人 サクラミステリー あおば出版 2003年7月号
ユートピア
大きな木の下で サクラミステリー あおば出版 2001年1月号
瞳を閉じて


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