鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「大奥怨霊絵巻」

  • 小林薫「大奥怨霊絵巻」(青泉社LGAコミックス)

連作短編集、全6編および「死者の花嫁」所収。紙版は2015年11月20日刊。kindle版は2016年10月28日刊。

歴史オカルトサスペンスとでも言うべきか。

主人公は篤姫。徳川十三代将軍家定に嫁ぐため、島津から江戸城へやってきた。家定は病弱で、しかも芋将軍とも揶揄されるバカ将軍。江戸城内には多くの怨霊が夜ごと城中をさまよっているとの噂もあり、先が思いやられるが……

実は強い怨霊を封じ込めている怨霊封じの場所が、人知れず江戸城内に何ヵ所かあるが、最近になってこの封印をすべて解いた者がいる。そのため場内では不審死が相次ぎ、城外においては徳川家が、いや日本が滅びてしまうかも知れない危機を迎えていた。そこで家定はバカのふりをしつつ、密かに怨霊退治の指揮を取っていた。公方様付きお年寄りの瀧山は、修行を積んだ修験道の人間。側室のお志賀は忍び。この三人と事情を知った篤姫の4人で怨霊を退治していく物語。

最近立て続けに読んでいる、サスペンス・ミステリー系の一連の女流作家の中で、亜月亮山内規子は、原則として作中にオカルト・超常現象あるいは超能力・超自然力が必ず登場し、それがストーリーの鍵となる。生田悠理は必ずというわけではないが、そうした現象や能力もごく自然に扱う。「葬儀屋事件簿」を読んで、小林薫はそうしたものを一切扱わない作家なのかと思っていたが、なんのことはない、そういう作品も描くのだった。

回を追うごとに敵は強力になり、後半では篤姫が命の危機に(何度も)遭うし、最終話では家定が命を落とす。また、封印を解いた犯人が途中で明らかになるが、意外な人物であり、強大であることも納得させられる。など、一話ごとにサスペンスフルであり、また連作としての面白さも堪能できる。

家定に子がないため、二人の後継者候補(慶喜と慶福)のどちらを養子にするか迷うが、慶福に決まっていく展開は興味深い。冒頭でお菓子を作って皆に配るシーンがあるが、これも実際にあったエピソードのようである。荒唐無稽な話ではあるが、意外に史実が踏まえてあって、歴史ドラマとしても楽しめる。



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