鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「大いなる助走」

筒井康隆が本年度の日本芸術院賞・恩賜賞を受賞したことをブログに書き、「大いなる助走」に言及したら、急に再読したくなった。それで30数年ぶりに読み返してみたのだが、驚いた。

途中までは、とにかく文章が面白い、登場人物が滑稽、展開がサスペンスフルと、読み始めたら目が離せず、一気に読んでしまうのだが、最後の最後にドーンときた。

こんな顛末になってしまい、関係者全員が自省するのである。おれたちはいったい、何をしてきたんだろうと。そして、これからどうするのだろうかと。それを「跳躍台なきわれらが永遠の助走」というのである。この言葉だけを読んでもなんだということになるが、300ページ近いドタバタを読み継いできて、最後の最後に出てくると、心を揺さぶられる。

それまで、完全に他人事だと思って読んでいて、自分に火の粉がふりかからないとわかっていれば、話は悲惨なほど面白いわけで、面白がって読んでいたら、最後の最後で刃を突き付けられたようなものだ。お前はどうなんだと。なんと恐ろしい話だろう。

これは、自分が直木賞を取れなかった恨み言を述べたというような、そんなチャチな小説ではない。見事な文学に昇華されている。