- 渡辺容子、「左手に告げるなかれ」(講談社文庫)
ツいている時はとことんツいていることを実感。立て続けに今まで読んだことのない作家の本を買ってきたが、今回もまた期待を裏切らない内容だった。最近の江戸川乱歩賞受賞作はこんなに好みに合っているのか。
主人公の八木薔子は万引き犯を捕まえるプロの保安士である。かつては証券会社のキャリアだったが、上司と不倫し、そのことがバレて社にいられなくなり、この職業に流れてきた。
この時の不倫相手の妻が殺され、容疑者として薔子が浮上、警察の取り調べを受けることになる。容疑を晴らすためには自分が真相をつかむしかない、と思い、調査を開始する……
タイトルは聖書に出てくる言葉で、その意味は「右手がよい行いをしたとしても、左手にさえ告げてはいけない」。つまりいいことをしたからといって自慢げに言いふらしてはいけない、という戒めである。そして、この言葉が殺人事件の謎を解くキーワードになる。それに気付いた時は「へーえ」と思った。
最近のミステリーは、謎解きよりも登場人物の心理描写に重点が置かれるものが多い。話としてはその方が面白い。薔子が孤独な闘いを決意するところ、思いがけず上司が味方についてくれること、三年ぶりに会ったかつての不倫相手の情けなさ、……こうしたことの積み重ねの向こうに事件がある。
もっとも、いくら自分に嫌疑がかけれたからといって、何の探偵経験もない素人が調査に乗り出すなどというのは、とても賛成できることではない。もう少しうまく素人探偵を登場させる必然性を練ってほしいと思う。
- 作者: 渡辺容子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1999/07/15
- メディア: 文庫
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