- 永嶋恵美、「転落」(講談社文庫)
書店に並んでいたの本書に何気なく目が留まり、買ってみた。聞いたことのない著者である。これが当たりだった。こんな作品にぶつかるとは。こうした喜びというのはなかなか他人と分かちあうというわけにはいかないが、本読みには共通する思いなのではないか。
心理サスペンスとなっているが、ミステリーとして読んだ。全体が三章に分かれている。それぞれが、三者の視点からのモノローグ形式になっている。最初の人の話から、読者がこうだと思い込んだ内容が、次の人の話を聞いて違っていたことを知る。「あっ、そういうことだったのか……」と思う。次の人の話を聞いて、読者が理解したつもりの内容が、三人目の話を聞いて見当はずれだったことを知り……という複層構造になっている。三人目の話でようやく全体の構造がわかり、なるほどそれはあっと驚く話である(もっとも、ミステリーを読み慣れていると、この程度では「衝撃」というほどではないが)。
第一章は82ページ、第二章は216ページ、第三章は28ページと章分けに偏りがある。第三章はいわば謎解きなので短い。第一章は導入部であり、メインは第二章になる。ここでは事件の成り行きもそうだが、飯田律子の心理の揺れが興味深い。本作はこの部分に価値があるといえる。
永嶋恵美の作品はそれほどたくさんはないが、既に2冊が文庫化されているようだ。楽しみがまた増えた。

- 作者: 永嶋恵美
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/04/15
- メディア: 文庫
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