鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「平和の国の島崎へ」1

  • 原作・濱田轟天、漫画・瀬下猛「平和の国の島崎へ」1(モーニングコミックス)

2022年12月22日刊。

まだモーニングを毎週購入していた時代の連載作品なので、読んでいたはずだが記憶にない。今回単行本で初めて通読した。

島崎真悟は、幼い頃に国際テロ組織に拉致誘拐され、以後、戦闘員としての訓練を受けてきた。逆らえば殺される環境下で優秀な戦闘員となり、数々の実戦も経験。30年の時を経て組織からの脱出に成功した島崎は、故郷の日本に戻り、平和な暮らしを送ろうとするが……

主に殺人などを請け負う組織で訓練を受け、優秀なメンバーだった人が組織を抜ける。裏切り者は死あるのみと組織は地の果てまで追いかけて殺そうとするが、逆に返り討ちに遭う……という設定は、きわめてスタンダードなもので、すんなりと受け入れれられる。こうした非合法組織では、裏切り者を放っておけば後に続く者が出て来ようし、警察などしかるべき機関にタレ込まれれば組織が壊滅するリスクもあるから、当然、死の制裁を受けさせるだろう、というわけだ。

この原型はどこから来たものだろうか。少し昔の著名な作品では「サイボーグ009」と「タイガーマスク」がこのパターン。特に「タイガーマスク」はこのパターンへの嵌め込みがうまくいっていると思う。アニメの「デビルマン」もそう。さほど著名な作品ではないが、横山光輝の「闇の土鬼」は典型的なパターン。「女殺し屋 銀猫」も同様。昔の「忍者もの」では、抜け忍は死、というのは当然とされていたから、白土三平あたりにルーツがあるのだろうか。

追いかける組織と返り討ちにする主人公でバトルシーンにはこと欠かない。話の終わり方としては、

  1. 最後は力尽きてやられる
  2. 逃げ切る
  3. 逃げてもジリ貧だからと反撃し、組織を壊滅に追い込む
  4. 和解する

などが考えられる。「サイボーグ009」は1~3を全部やった。「闇の土鬼」は4のパターンか?

こうした物語には、プロの殺人者である主人公が、その心や技量を隠していかに世間に溶け込むか、という葛藤が描かれることもある。「タイガーマスク」では孤児院へ寄付をすることで自分なりの慰めとした。漫画の「デビルマン」は美樹の存在が不動を支えた。「サイボーグ009」でもそういうシーンは描かれたが、仲間がいる分、あまり孤独感は持たずに済んだようである。「エリア88」は、脱走ではないが、除隊になったあとも平和に馴染めず、戦場を求めてしまう人の心がテーマのひとつだった。

本作では、平凡に静かに生きたいと考え、それを実行している島崎が、否応もなく騒動に巻き込まれてしまう点に主眼がある。不漁にからまれても無双してカッコイイというレベルの話ではないのだ。後半では追いかけて来た組織の手がジワリと近寄って来て、ゾクリとする。何度も「島崎が戦場へ戻るまで×日」とアナウンスされるから、平和な生活は全うできないのか。

仕事が漫画家のアシスタントと喫茶店のウエイターというのが面白い。

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