鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「将棋の渡辺くん」7(新刊)

2024年2月8日刊。

6巻のあとがきで7巻の発売予告があり、渡辺明が「それまでタイトル持っていられるかなあ」と書いている。藤井君の登場により、タイトルをだんだん削られてはいたが、まさか7巻発売時に、すべてのタイトルを藤井君が手にしているとは、夢にも思わなかったに違いない。

近年は将棋は人気を盛り返し、「見る将」と呼ばれる人も増えているという。それは藤井君という天才棋士の登場や、その他多くの人の努力によるものであろうが、「将棋の渡辺くん」という漫画作品の果たした役割はずいぶんと大きいのではないかと思う。私自身、渡辺明をはじめ、現在活躍している著名な棋士の名前はこの作品で知った。また、藤井聡太に関しては、○連勝とか最年少××とかの報道はかまびすしいが、何がどうすごいのか、多少なりともイメージできるようになったのは、本作のおかげである。連盟は伊奈めぐみには感謝状を贈るべきであり、また全棋士に対して、伊奈めぐみの取材依頼には優先的に対応するよう指示を出すべきである。

また、伊奈めぐみは、夫がたまたま将棋がべらぼうに強い上に濃いキャラクター性を持っており、また、自身をネタにした漫画を描くことを嫌がらない(どころか協力する)という、恵まれた存在である……というだけの作家ではない。絵もうまい上に、話のまとめ方が抜群にうまい。6巻巻末のおまけ漫画「転生しても最強棋士だった件」や本巻巻末のおまけ漫画「どんまい渡辺くん」は猛烈に笑えた。この人は創作でも十分にやっていける。各出版社の編集者が、なぜ彼女に原稿依頼をしないのか不思議でならない。おまけに、ここのところ本作ですら「続ける? もうやめる?」みたいな話になっているそうだが、別マガ編集部は何を考えているのだと言いたい。やめてはいけないし、やめさせてはいけない。

7巻では、渡辺明藤井聡太に王将を取られ、名人を取られた。朝日杯でも決勝で藤井と当たって負けたことが描かれている。作者の「また君か!」のツッコミに「持っているから取られるんだよ……」は至言。私などは藤井に取られるものなど何もないもの。



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