鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「吾輩の部屋である」1

2015年11月12日刊。

「今日のさんぽんた」があまりにも面白いので、作者の他の作品はないかと調べたら、「今日のさんぽんた」の前にゲッサンに連載していたのが本作らしい。というわけで1巻を購入。

主人公は鍵山。男性、大学院生でアパートに一人暮らし。専攻は河川工学。教授からはしばしば叱責され、将来を心配されている。同じ研究室の植村さんが好き。仲は悪くないが、打ち明けられずにいる。

といったところであろうか。登場人物は主人公のみ(電話やメールのやりとりはあるが)。部屋の中でうだうだ独り言をつぶやき続ける(だけの)作品である。部屋の家具や電気製品や置物などが適宜ツッコミを入れるが、会話が成り立っている感じではない。まさに「今日のさんぽんた」の原形のような作品だ。

思わず笑ってしまうところも何ヵ所もあり、十分面白い作品ではある。

しかし、改めて考えると、「今日のさんぽんた」はよくできた作品だなあと思う。

本作は、誰がツッコんでいるのかはっきりせず、しかも電灯も置物も空き瓶も、キャラに違いがあるようには見えない。「今日のさんぽんた」は主人公の相手役が「ぽんた」としてはっきり形になっており、その分、ツッコミがキレッキレである。

りえ子は確かにあまり賢くはないし、根気もないし、ぐうたらではある。ただしぽんたへの愛情は強いものがある。そして散歩はサボらない(端折ることはあって、ぽんたは気に入らないようだが)。だからりえ子は魅力的なのだ。対して本作の主人公は、ただの「ダメな人」で、あまり魅力が感じられない。教授ならずとも心配するところである。

ところで、仕事でお付き合いのある大学の研究室で、ある男子院生と女子院生が、院を出る時に「結婚することになりました」と連絡をいただいたことがある。これにはびっくりした。研究室というものは、一般に人数はそんなに多くない。そして研究が佳境に入ると長時間行動をともにすることになる。だから、仲は良くなる。でも、そこで「好きです、付き合ってください!」とやって、「え? そういうつもりで考えたことなかったけど? というか私、彼氏いるし?」みたいに言われたら、残りの大学院生活が地獄ではないか(お互いに)。うまくいけばいいが、そうでない時にとても大きなリスクを抱えることになる。どっちが言い出したのかはわからないが、よく告白できたなあ、と思ったのだ。

植村さんとは、二人で食事や映画に行ったことはなくても、好きなものの話で盛り上がったり、CDを貸し借りしたり、誕生日にメッセージが送られてくるなど、仲は良いようだから、このまま何も言わず、最後まで仲良く過ごすのがいいと思う。どうしても告白するなら修士論文を書いたあとにしよう。



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