2009年1月20日刊。デビュー作を含む連作短編集。蔵書の文庫本を読んだ。
素晴らしい力作で、短編小説としての面白さを存分に味わわせてくれると同時に、戦争のむごさや地雷の悲惨さも強く印象付けられる作品だ。
ところで、これをミステリーと呼ぶことにはいささかの躊躇がある。どの話も誰かが死に、犯人や殺害方法などが謎となる。そしてそれを解き明かす者が現われる、典型的なミステリーなのだが、話の本質がそこにないような気がするのだ。小説として面白ければジャンル分けはどうでもいいのだが。
「未来へ踏み出す足」では、カンボジアのコン・ソルンは現地での地雷除去の中心的人物。穏やかで優しい顔をしているが、ときおり瞳の奥に暗い光が宿る。物語の終盤で、大学教授の谷村が、明るい表情だが瞳にときおり暗い光が宿る、と描かれたシーンでは心底ゾッとした。