鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「顔のない敵」

2009年1月20日刊。デビュー作を含む連作短編集。蔵書の文庫本を読んだ。

素晴らしい力作で、短編小説としての面白さを存分に味わわせてくれると同時に、戦争のむごさや地雷の悲惨さも強く印象付けられる作品だ。

ところで、これをミステリーと呼ぶことにはいささかの躊躇がある。どの話も誰かが死に、犯人や殺害方法などが謎となる。そしてそれを解き明かす者が現われる、典型的なミステリーなのだが、話の本質がそこにないような気がするのだ。小説として面白ければジャンル分けはどうでもいいのだが。

「未来へ踏み出す足」では、カンボジアのコン・ソルンは現地での地雷除去の中心的人物。穏やかで優しい顔をしているが、ときおり瞳の奥に暗い光が宿る。物語の終盤で、大学教授の谷村が、明るい表情だが瞳にときおり暗い光が宿る、と描かれたシーンでは心底ゾッとした。

初出一覧

タイトル 掲載誌 日付
地雷原突破 本格推理⑫ 1998年
利口な地雷 本格推理⑮ 1999年
顔のない敵 ジャーロ 2003年夏
トラバサミ ジャーロ 2006年夏
銃声でなく、音楽を ジャーロ 2006年夏
未来へ踏み出す足 ジャーロ 2006年夏
暗い箱の中で 本格推理⑪ 1997年



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