- 黒谷知也「「人生」のようなもの」
この作者の作品、面白いか? と聞かれると、「面白いものも(たまには)ある」としか答えようがないのだが、妙に病みつきになる。
作画はあまり今風ではない。ちょっとガロ的なところもあるのだけど、といって昭和風かといえばそうでもなく、一回ひねってやはり令和なのか。
この本の中では「西瓜と猫」がシュールでとても好きだ。
これまでの作品集と比べて比較的明るい話が多い。そしてやはり作者は本の虫(読書が好き)のようだ。
「書店員波山個間子」の原型になる短編が載っているというので購入してみた。2014年に小学館IKKI新人賞単行本描きおろしを受賞し出版された、著者の第一短編集。kindle版は個人で再編集したものだとのこと。
短い話が多い……短編集だから当たり前だけど、起承転結になっていなくて、起承だけのような作品が多い。あるシーン、ある雰囲気をとらえた(だけ)の作品というか。アマチュアの同人誌などではよくあるが、目の付け所は素人離れしたものを感じる。マンションが火事になり、近所の人がみな自分のマンションを見上げているから様子がわかるのだろうが当のマンションの住人が何が起きているかわからない不安……を描いた話などは秀逸だと思う。
「書店員波山個間子」はなるほどのちのダイジェストのような作品で、これを描き直してあれになったわけね……
一番印象に残ったのは「谷後先生」だ。作者は読書がすきだったんだなあと思う。
森田はバカなんだけど、遊びにいったイベントで担任の武藤先生のコスプレ姿を見て、動揺し、葛藤したあと、精神的に成長を遂げるところが素晴らしい。本巻の一番の佳作と思う。
冒頭の話で、杉田と野口が一緒に下着を買いに来ているのを見て、ああ、あのあと何度もこうして買い物に行くようになったんだなーと感慨深い。
最終話、森田が花瓶にちんこを挿したら抜けなくなってしまい、男の先生が担任に、「先生がいるとちょっと……」と言って遠ざけようとするところがおかしい。それでも(恐らく事態を理解していない)武藤先生はその場を去らず、「都道府県を上から順に行ってみろ」という男の先生に森田が息も絶え絶えに「北海道、青森……、秋田……」と答えているのを見て、「何を言わせているんですか!?」と声を上げている。武藤先生、もういい年なんだから察してほしい。
11 | 中村先輩:榎本のことをかわいいと思っている? | 榎本:貧乳 |
11休 | 杉田:榎本のために一肌脱ぐ | 野口:杉田と一緒に買い物 |
12 | 森田:担任のコスプレ姿を見てしまう | 武藤:担任 |
12休 | 三木周平:SM図書委員に | ― |
13 | 王子様は誰? | 田畑:男子トイレで用便するのが癖に |
14 | 小西:兄弟多い、江口:一人っ子 | ― |
14休 | 江口、小西 | 涌井:いつも江口(と小西)を見ている、長谷川:親切なんだけど鈍い |
15 | 森田:自分のちんこが小さいと悩む | 花巻:森田のことをうざがっている |
あるあるだなーと思う。
近所の10歳上の女性が好きな男の子の話。とても仲が良くて、いつも一緒に過ごしていて、自分にとって彼女がそうであるように、彼女にとっても自分がone and onlyだと思っていたのだが、休日に一緒に過ごすときに彼女の友達だという同世代の男が混ざってくるようになる。なぜ彼女との二人きりのはずの時間にこいつが混ざってくるのかと腹を立てるが、彼女とこの男がキスする場面を見てしまい……
好きな人に嫌われるのも、振りむいてももらえず無視されるのもつらいが、とても仲良く付き合っているのに、その「仲の良さ」に大きな温度差があるというのも別の意味でまたつらいもの。その上、年上の人から子供扱いされたことの無念さ、悔しさといったら……
ほかにも自分の中高生の頃をほうふつさせるようなエピソードばかり。それでも、楽しそうでうらやましくもあり。
中学生の思春期について描いた本。「性」にも関心があるし、「身体」の変化にも戸惑ったり悩んだりするお年頃。そういう心情を真正面から描いた作品は意外に少ないのではないか。
第一話の、胸が大きいことに悩む女子とブラジャーに興味のある男子の話が面白かった。悩みを笑ったり茶化したりせず真剣に聞いてくれる人っていいよね。