鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「1・2の三四郎」プロレス編(その3)人間関係編

主人公・三四郎+虎吉、馬之助、そして志乃。この4人が一貫して物語の中心である。常に行動を共にする仲間ということになる。

三四郎が柔道を辞めて格闘部が解散状態になったあと、馬之助はレスリングでインターハイ優勝。高校卒業後の進路はともかく、オリンピック出場の夢に向かって栄光の第一歩を踏み出した。

虎吉も、大きな漫画賞を受賞したわけでも、雑誌連載が決まったわけでもないが、期待してくれている担当編集者がいて、高校を卒業したら東京に出てくるよう言われている。こちらも、職業漫画家を目指し、かすかではあるが光が見えている状況である。

一方の三四郎は、ラグビーは中途でやめ、柔道は地区の一回戦負け、これから先、何をすればいいのか? 本人は何がしたいのか? 何も決まっていないし、見通しがまるで立たない。本当は馬之助や虎吉(や参豪や飛鳥)を見て、焦るのは三四郎のはずである。それなのに、三四郎がプロレスラーを目指すと聞いて(テストに合格したわけでも何でもなく、単に本人がその気になっただけなのに)馬之助や虎吉が動揺するのが不思議である。

馬之助がプロに転向するのはまだわかるとして、なぜ虎吉までが付き合うのか。虎吉も、いきなり漫画でお金を稼ぐことはできないから、仕事をしなくてはならない。そこで保父さんを職業とする、というならそれはそれでわかる。三人で一緒に暮らすことで十分「行動を共にしている」ことになろう。

しかし、虎吉はレスラーになるための特訓を(桜五郎が新東京プロでコーチをしていた時は若手が何人も夜逃げをしたほどの厳しい特訓を)、三四郎や馬之助と一緒に受けるのである。これがわからない。漫画家をやめてプロレスラーになりたくなったわけではないのである。そして、保父さんの仕事を済ませ、レスリングの練習が終われば、三四郎や馬之助にとって一日が終わるが、虎吉はそれからが本番で、毎晩遅くまで漫画を描いているという。三四郎らが練習をしている間に虎吉が漫画を描くならわかるが……

虎吉は少女漫画から格闘漫画へ路線変更したらしいから、体験取材という意味があった。そう考えるほかはない。

互いに刺激を与え合ったり、ぶつかり合ったりするが、三人ともそれぞれ自分の目標に向けて全力投球し、その姿勢をお互いに心の底でリスペクトしている、という関係だったはず。しかし、三四郎に振り回されているだけの優柔不断な人間に見えてしまうのだ*1

とはいえ、目標に向けてマイペースで努力しているであろう飛鳥や参豪は、三四郎らと行動を共にしていないから、その姿が読者には見えない。難しいものである。



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(2020/5/20 記)

*1:実は高校時代から、虎吉や馬之助が三四郎に振り回される傾向はあった。ラグビーの試合をしたり柔道の試合をしたりしているのがそのいい証拠である。もっとも、これは高校生の部活動の話である。