鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「リングにかけろ」の魅力

リングにかけろ」は名作中の名作だと思っている。その中で、これはうまい、と一番感心したのは、団体戦において全員無敗の完全勝利を挙げたことである。

高嶺竜児は都大会の決勝で剣崎順と争うも破れ、準優勝。が、剣崎は腕の手術のため全国大会を欠場することになり、準優勝の高嶺が繰り上がりで都代表として出場。準決勝で志那虎を破り、決勝で河井武士を破って日本チャンピオンとなる。高嶺、河井、志那虎、準決勝で河井に敗れた香取石松、これに手術が成功し帰国した剣崎の5人が日本のベスト5のジュニアボクサーということになる(剣崎は高嶺に勝っているから、理屈で言えばジュニアチャンピオンの高嶺より上ということになるが、チャンピオンカーニバルで一勝もしていない剣崎が偉そうに日本最強を名乗り、誰もこれに異論をはさまないのがすごい)。

その後は、日米決戦、影道決戦、世界大会と、5対5の団体戦が続く。

こうした場合、格下相手には圧勝しても、競合相手には(読者をハラハラさせるため)苦戦しなければならない。そのため、強かったはずの味方が負ける……のが普通である。

「1・2の三四郎」では、時代的には「リングにかけろ」より少し早い。これもスポーツ漫画に革命を起こした作品だが、ハラハラさせ方は伝統を踏襲している。ラグビー編では、クラブ祭のリレーで格闘部とラグビー部の一騎打ちとなり、一番手の参豪はリードするも虎吉であっさり抜き返され、馬之助が追い付き、四人目、東三四郎と飛鳥純との争いとなる。柔道編では、1~3回戦は圧勝したが、準決勝の明新高校戦では虎吉が負けた。

主人公の三四郎以外も、馬之助はレスリングの、参豪は柔道のインターハイ選手である一方、虎吉は美術部の出身であるせいか、虎吉が負け役になることが多かった。虎吉が好きだった自分は、納得のいかないものを感じつつも、ストーリーの展開上、致し方ないことは理解していた。

これに対し「リングにかけろ」では、剣崎も高嶺も、河井も志那虎も、石松も、誰一人負けない。だから、誰のファンであっても失望することがない。結果だけを見れば圧勝だが、試合経過自体は苦戦も多く、決して楽勝だったわけではない……という描き方がうまいのだ。十分ハラハラするけれども、最後はスカッと決めてくれる。これがよかったと思うのだ。

もう一つ、都大会の一回戦、辻本戦のみは延々と描かれたが、それ以降は、ごく一部の試合を覗いて、ほとんどの試合は一週間で決着がついている(週刊誌連載の一回分で試合が終わる)。怒涛の展開である。このスピード感が心地よかった。極めてテンポよく話が進んでいくのだ。敢えて名前を挙げるが、「はじめの一歩」などはどんどん試合時間が長くなっていく。それだけ緻密に描いているのは間違いないが、「いつまでやっているんだ」という気になるのも事実である。

あしたのジョー」は全20巻、「リングにかけろ」は25巻。当時はこれでも大長編だった。最近は気が付くと30巻、40巻と続いている漫画が珍しくない。それに見合う内容があればもちろんいいのだが、展開が非常にゆっくりしていることも多い。「リンクにかけろ」のスピード感は、現代の漫画家には大いに見習ってもらいたいと思う。


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