鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

古風な絵柄で上品なギャグ漫画「わさび」1

わさび 第一集

わさび 第一集

一條裕子は懐かしい名前だ。1994年から1997年ごろにかけてビッグコミックスピリッツで連載を持っており、絵柄は古風、独特の間から繰り出すギャグはキレがあって、面白いと思い、単行本を揃えたものだ(ちょっと高かったけど)。その後、名前を聞かなくなり、記憶からも消え、すっかり忘れていたのだが、ここ数日、江口寿史の本の感想を書くためにWikipediaを眺めていて驚愕した。

江口は、「紫苑……」という名前(点々までが名前だそうです)のアマチュア同人作家の作品を二度ほど自著で取り上げたことがある。褒めるためではなく、おちょくるためだが、この「紫苑……」がのちの一條裕子だというのだ。それがなぜそんなに驚きかと言うと、一言でいえば絵柄が全然違うから。

単に傾向が違うというのではなく、一條裕子はそれなりにうまいが、紫苑……はへたくそ。そもそも紫苑……は(紹介された作品を読む限りでは)自己完結というか自己陶酔の世界にこもってしまっていて、読者にわかってもらおうとする努力をまるでしていない。江口のところへ作品を送り付けたということは、プロを目指しているのだろうが、アマチュア同人作家の大物で終わる典型的な人物だと思っていたのだ。

江口寿史のアシスタントをしていた時期もあったらしいが、江口寿史が紫苑……の作品を見て、見どころがあると思って引っ張ったのなら慧眼であったし、その間に彼女の中からポピュリズムというか大衆性を引き出したなら、コーチとして凄腕だということになる。初めから描き分けていたんですよ、と言われたら返す言葉がないけど……

今はkindle版が出ていると知り、速攻で全巻買い求めた。


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