2022年4月7日kindle版刊。「大統領の爆弾特使」「空手戦争」の二編所収。「週刊サンケイ」での掲載は、前者が1973年1月~2月、後者は1974年1月~2月掲載。
「大統領の爆弾特使」大統領の特使として来日した長官を複数の異なる組織が狙う。FBIと牙直人が必死で護衛を務めるが、この長官は異常な女好きで、それがために警備は難航し……。格闘技の達人は登場しない。銃剣や飛び道具を持つ複数の相手に、人質を取られた牙がどう戦うか。
春日マキの動きが素人丸出しでアキレス腱となるが、空手は多少強いかも知れないとしても、警備員として、諜報員としての訓練を受けたわけでもないので致し方ない。彼女はボディガードとしての活動に関わらせるべきではないのだ。きゅちから脱出するのに「三年殺し」のトリックを使用。これは梶原一騎原作の他作品でも何度か見られた手法。恐らく時代的には本作は一番古いと思うが。
「空手戦争」最終回は空手 vs 空手。敵方の空手マンが強い訳も納得がいくし、黒幕は意外。そして空手対空手は一番面白い。この作品が本シリーズで一番と思う。それにしてもこの空手のセンセイ、これだけ強い弟子を育成できる力量があれば、何もこのような非合法の手段を使わずとも、普通に興隆させられたと思うがなあ。
「空手家がゼニを握ろうと思うと万事が狂ってくる」とおっしゃいますが、一件(最低)1,000万円を取るボディガード業は何なのだ? 大金を稼いでいるはずだが……
全体を振り返って。ボディガード業は強いだけでは務まらない。相当に頭が回ることと、情報収集力があること。むしろこの二つがなければあっという間に命を落とすことになりかねない。「ゴルゴ13」は、デュークの射撃や格闘の腕もさることながら、頭の良さと、依頼人をも疑ってかかる慎重さ(事前の情報収集)がキーになっており、このどちらかに欠ける同業者が殺されていく話もあった。本作品はそこに焦点を当ててしまうと、いろいろと無理が生じる。だから、敵方にもなんらかの格闘技のプロが登場し、その相手との戦いになるような作品は抜群に面白いが、そうでない作品はイマイチということになる。政治や国際情勢に関して、実際に起きていることをうまく取り入れ、作品として面白くする、というのは梶原一騎をしても簡単にできることではない、ということだろう。逆に、「ゴルゴ13」がエンターテイメントとしていかに優れているかを、本作を通じて改めて感じた。