鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「四角いジャングル」はちょっと語らせてもらいたい(その3)

漫画作品として成り立っていないのは一読すれば明らかで、どこに突っ込みを入れようか迷うくらいだが、一言で言えば主人公不在に尽きるだろう。

冒頭は赤星潮で始まる。行方不明になった兄を探しに単身でアメリカに行く。暴走族にからまれ、バイクに乗った8人(台)ほどに絡まれるが、空手技で一瞬にして制圧する。兄はラスベガスで空手道場を開いていたが、マーシャルアーツ(プロ空手)に道場破りをかけられ負けてしまう。リベンジのためベニー・ユキーデに挑戦するも、1ラウンドでKOされる。

打倒ユキーデを誓った潮は、メキシコに渡り、プロボクサーとプロレスラーの二刀流で活躍。レスラーとしてはミル・マスカラスと引き分けに持ち込むほどであったが……日本に帰国し黒崎道場に再入門後はパッとしない。ほとんど試合をしないしたまにしても前座で、しかも結果はイマイチ。役割は完全な狂言回しに徹されている。

赤星壮介をKOし序盤に無敵のヒーローとして描かれたベニー・ユキーデも、中盤でタイのシーソンポップに敗れてから出番がなくなり、藤原敏男との「世紀の対決」も実現しないまま漫画から退場。いつの間にか描かれなくなって終わり。後半は完全にアントニオ猪木対ウイリー・ウイリアムスの一戦に向けての状況を劇的に(まさしく劇的に)描き、試合が終わったところで作品は終了。

ストーリーもへったくれもないのだが、これは現実の動きをリアルに描いているからこうなってしまうのだろうと思っていた。プロ空手も鳴り物入りで日本に紹介されたが、最強を謳うザ・モンスターマンやランバージャックが次々と猪木に負け、ベニー・ユキーデがタイ式に負けてからは実際に尻つぼみだったし、創作なら紆余曲折の後、藤原とユキーデの最強対決で盛り上がるところだろうが、実際に試合は行われなかったのだから嘘は書けないのだ。

当時の格闘技界の動きを知らなかった人はもちろん、知っていたとしても、あとから本作を読み返すと、これは一体何を描いた作品なの!? と疑問に感じてもやむを得ない。

僕はプロレスにはさほど興味はなかったが、極真空手には注目していたので、猪木ウイリー戦が本決まりになってからは東京スポーツもよく買ったが、そこで記事になっていることがちゃんと漫画でもその通りに取り上げられていて、ああまさに漫画の中の出来事が現実に起きているんだなと興奮しながら読んでいた。

何十年ぶりかで読み返したが、この作品を読むと当時の興奮と熱狂が脳裏によみがえってくる。そういう人は一定数いるだろう。


漫画・コミックランキング