鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「四角いジャングル」はちょっと語らせてもらいたい(その2)

この漫画は、連載時にリアルタイムで読んでいた人しか面白いとは思わないだろう。あるいは、本作を知らなくても1980年前後の格闘技界の動き、アントニオ猪木対プロ空手の異種格闘技戦だとか、藤原敏男はタイ式ボクシングで日本人初の王者になったとか、そのあたりに夢中になっていた人にとっては……どうだろうか。当時、本作を知らずに格闘技界の動きを見ていた人が、いま本作を読むと「そうそう!」となるのか、「なんじゃこりゃ」になるのか。

本作は、漫画としては支離滅裂である。連載当時から「なにこれ」と言う人もいた。が、僕らからしたら、そこはどうでも良かったのである。当時、新日プロのプロレスは毎週テレビ放映があったが、キックボクシングはマイナースポーツだったし、極真空手の大会など、テレビ中継どころかスポーツニュースでも触れられない。中高生のお小遣いでは毎朝東京スポーツを買うわけにもいかない。そうした中で、格闘技界の動きを全方位的に、裏話も含めて詳しく教えてくれたのはこの漫画だけだったのだ。

読んでいた時はそのように思っていたのだが、実は本作にはもう一つの意図がある。それは、原作者の梶原一騎が、格闘技界を牛耳りたい……とまで思っていたかどうかわからないが、少なくとも中心的な動きに常に関わっていたい、と考えていたことである。そのため、梶原一騎自身がやたらに登場する。プロパガンダになっているということだ。

その傾向は「空手バカ一代」にもあり、極真空手の動向に関しては「空手バカ一代」の続編ともいえるが、「空手バカ一代」では大会の審査員として以外は登場しないし、本作の少しあとに少年サンデーで連載された「プロレススーパースター列伝」でも(タイガーマスクの章を除けば)梶原一騎は登場しないが、本作での露出は異様である。格闘技界における自分の存在をそれだけアピールしたかったのだろう。そして、ある時期まではそれは成功したのだ。


漫画・コミックランキング