鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「バスカビル家の犬」

2004年8月15日刊。本書は、痛快 世界の冒険文学24「バスカビル家の犬」(1999年、講談社)をもとに、再編集したソフトカバー版「大沢在昌のバスカビル家の犬」(2002年4月)を文庫化にあたり改題したもの。

文庫本の大沢在昌の作品の中に唐突に本作が登場する。大沢がほかに「ドイルもの」を翻訳した様子はない。そもそも翻訳自体、本作のみである。当初は不思議だったが、文学全集の一部を担当し、それを文庫化し翻訳者の項に収めたためにこのような事態になったのだろう。

購入したのはずいぶん昔と思っていたが、19年前に発売されたものだから、少なくともそれ以降である。本棚で見つけて急に読みたくなった。

本作が翻訳として優れているなあと思うのは、お金に関して、「五ポンド(今の約12万円にあたる)」「一シリング(二十分の一ポンド=約1200円)」のように、一々貨幣価値を換算して記載してくれているところである。時代が違う外国の小説に関しては、これは必要だと思うが、ほとんどの「ホームズもの」はそれをしてくれない(と、以前不満を述べた。下記リンク参照)。

話はむろんよく知っているが、改めて読んでみるといろいろ気づくところがあり興味深い。

最大の問題は、チャールズ・バスカヴィル卿が亡くなったあと、後継者は「チャールズ卿の甥であるヘンリー・バスカヴィル卿一人」とされた点にある。一人暮らしの資産家が亡くなったのであり、その相続は個人の問題にとどまらない。それなりのお金をかけて、専門家が調査したはずである。そこでもう一人係累がいる(ステープルトン)ことがわからないのは疑問だ。

チャールズ卿の残した資産はざっと240億円ほどだそうである。ステープルトンは次々と後継者を殺して自分が独り占めしようとせず、素直に名乗り出て、その一部を正当に相続した方がよかったのではないか。二割もらえれば48億。一生豪勢な暮らしができよう。そうならないところが生来の悪人ということなのだろうが。

劇的に事件を終わらせたがるホームズの悪癖については、ワトスンがたびたび指摘するところではあるが、今回はヘンリーにそれと知らせず囮役をやらせるとは常軌を逸している。おかげであわや命を失うところだった。一命をとりとめたとはいえ、魔犬に襲われ、目の前で射殺されたのである。ステープルトンを逮捕することはできなくても、確実にヘンリーを守ることを選択すべきだった。

過去記事

ここでは「1ポンドは4~5万円くらいかと思われる」と考察しているが、大沢在昌は2万4千円としている。



漫画・コミックランキング