鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「哀シャドー」1

  • 原作・工藤かずや、作画・平野仁「哀シャドー」1(グループ・ゼロ)

2019年12月26日刊。もともとはリイド社SPコミックス、1985年5月5日刊。平野仁のもっとも脂の乗り切った時期の作品と思われる。

諸橋悦子は殺人事件を犯したとして死刑判決を受けた。本人はやっていない、冤罪だと主張したが、彼女が犯人だとする証拠がたくさんあり、その主張は聞き入れられなかった。死刑は執行されたが、死ぬ前に助け出され、「言うことを聞くなら生かしてやる、息子にも会わせてやる、厭ならこのまま死刑を続行する」と迫られ、引き受ける。その命令とは組織の指定する人物を殺すこと――。

顔・名前・戸籍すべてを変え、桐原冴子に生まれ変わった主人公は、組織の殺し屋となった。組織の指定する人物は法で裁けない重大な犯罪人だということだが、冴子にそれを確かめるすべはない……。

という設定。判決が下ってから執行までが早過ぎやしないか、疑問に感じないでもないが、そこは気にしないことにする。人を殺すには相応の「技術」が必要だが、諸橋悦子にどういう「素質」があったのか、組織が目を付けた理由がよくわからないが、若い女だから助けて言うことを聞かせよう、失敗して殺されたらそれまで、くらいの判断なのかも知れない。

桐原冴子が美人で色気がある。平野仁の真骨頂だ。「メロス」のポーラを彷彿させる。

連作短編のていだが、各話がきちんと終わっていないのが気になる。第一話は、アメリカ大使館が接待するほどのVIPを殺し、その部下も手にかけたが、死体の始末もせず、どうなったのか、何人もの敵に追いかけられたが、逃げ切れたのか。冴子の組織はアメリカ大使館とも通じているようだから、そのあたりは組織の力でうまくやったのかも知れないが、そこは描かれない。ちょっと尻切れトンボな印象だ。

組織は当初は冴子を信用せず、24時間監視下に置くが、精神衛生維持のため、少しずつ自由時間を与える。最初は子どもに会いに行くが、その後は自分を巧妙に殺人犯に仕立てた「謎」を解こうとする。ついに、「諸橋悦子から殺してくれと頼まれた」と偽証した人物の行方を突き止めた……

組織は何のために彼女を殺人犯に仕立てたのか。闇が深い。



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