鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「ヒビコレ 公民館のジョーさん」3(最終巻)

  • かたおかみさお「ヒビコレ 公民館のジョーさん」3(双葉社ジュールコミックス)

2巻の途中から存在感を発揮する黒猫は本巻も出ずっぱりだがそのエピソードは省略。

面白かったのは町内会のエピソード。甘木さんと言う人(これもしかして「某」さんを分解した名ではあるまいな)が、町内会は年寄りの暇人がやっているだけ、入っても面倒を押しつけられるだけでいいことないから入らないという。「ゴミの収集方法が変わったのを回覧板で知った」という人に「それは市が広報すべきこと、なぜ町内会にお金を払って情報をもらわないといけないのか?」などと息巻き、町内会に入っている人を「お人よし」呼ばわりする。

が、彼女の息子(5才)が迷子になってしまい、ジョーをはじめ町内の人の協力で無事に見つかるという事件が起きる。子供は早くに区民館で保護されていたのだが、どのうちの子かを見つけるのに手間取った。町内会に入っていればもっと早く家に連れて行けた……というオチである。

ただ、金田のオバチャンが「町内会に入っていないからそんなことになるのよ」とくどくど言いかけると、ジョーは「うるさいなー金田のオバチャンは。そんなんしつこく言うから入りたくない人が増えてんのよ」とビシっと言う。ただし甘木に対しても、役所は市民に情報をちゃんとお知らせしてますよ、と言うのである。「チラシもポスターも(区民館に)常に置いてあります、見に来てください」と。

灯と鷹は、梅ちゃんの娘ではなく、息子の子だった。また、灯が家を出たのは中学を卒業したあとだった。母親の元へ行ったのだが、三年後に再婚することになったため、また家を出たのだった……

灯と鷹の母親はそれぞれ違う。そして鷹は、父親も灯の父親とは違うのではないかと疑っている。自分の母親は男にだらしなかったから……と。そうなると梅とも灯とも血がつながっていないことになる。が、灯の「一緒に住んでいれば家族だ」という言葉を胸に、家族であろうと努力している。ただし梅は、鷹が太叔父に年々似てくるため、息子の子であると確信しているようだ。

梅ちゃんの夫の洋が亡くなった時、もうあたしを梅ちゃんとって呼んでくれる人が誰もいなくなった……と泣いているのを鷹に見られ、以後、鷹は祖母のことを「梅ちゃん」と呼ぶことにした。方向性がちょっとずれているとは思うが、鷹は優しい子なのだ。

これにて完結。面白い作品だが読むのはちょっと疲れたから、ちょうどいい終わり方だ。



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「ヒビコレ 公民館のジョーさん」2

  • かたおかみさお「ヒビコレ 公民館のジョーさん」2(双葉社ジュールコミックス)

つかみどころのない作品、とは一巻でも書いたが、依然、印象派変わらない。読む分には面白いのだが作品のことをこうして書こうとするととても苦労する。

灯と鷹の両親、梅ちゃんの娘とその夫は、それぞれ愛人を作って、子供を置いて出て行ってしまう。高校を卒業して灯も家を出る。両親に捨てられただけでなく、姉にも見捨てられたと思った鷹は、以後引きこもりになるが、15年ぶりに姉が帰ってきて、少しずつ社会との関わりを持つようになる。

二人がまだ小さいころ、灯が鷹に、お母さんはバカだ、と言うと、鷹が「お母さんのことをバカだと言うな」と言って泣き出したことがある。その鷹を見て反省した灯は、以後、人前で誰かのことをバカ呼ばわりするのはやめようと決心する。

そしていま、バカなクレームをつけに区民館まできた母親がいたが、灯は「はい」「わかりました」と答える。そして帰宅後、鷹に、「バカなことを」とは言わなかったよ、あんたとのことを忘れたことなかったから、と伝える。が、そのとばっちりで夕食が鯵の予定が急遽ハンバーグになってしまい、鷹が「ずっと口が鯵だったんだぞ、作りたいときは事前に言えバカ」と文句を言うと、灯は「ばーちゃんの前でケンカ売らないだけ大人になったな」と答える……

鷹は、この家で生まれたわけではなく、ある時に連れてこられたようだ。どこからどうして連れてこられたのかはわからない。灯は、急にできた弟を彼女なりに可愛がっていたようだが、いろいろ苦労もあったようだ。それは鷹も同じなのだが……。灯は職場では明るく、またてきぱきと仕事をこなしているが、いろいろ心に問題を抱えているようだ。

灯も鷹も、小さな傷をたくさん負いながら、少しずつ前に向かって進もうとしている。

区民館に卓球を利用しに来たおばさんが、ラケットを借りようとして有料なことに文句をつけるのだが、灯がそれにビシっと言い返すのは爽快感があった。その利用料でゴムを張り替えたりする維持費を捻出しているのだからご協力くださいと。



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「可愛いだけじゃない式守さん」1

  • 真木蛍五「可愛いだけじゃない式守さん」1(講談社マガジンポケット)

これも「からかい上手の高木さん」の派生作品のひとつといえるか? いや「となりの関くん」なのか? タイトルだけをいうなら「ントカカントカ○○さん」という作品は最近すごく多い、というよりひとつの方法として定着したといえる。「能面女子の花子さん」とかもそう(内容は全然違うけど)。

本作は、クラスメートはいろいろ登場するが、基本は和泉ゆうくんと式守さん(下の名前不明)の二人劇。

和泉は成績はいいが、運動神経は鈍く、ドジで、不幸体質の地味メン。式守さんは成績は和泉ほどではなく、料理は大の苦手だが、運動神経は抜群。

式守さんは普段は控えめで恥ずかしがり屋で清楚な人柄だが、和泉がピンチになると、人間業とは思えないような能力を発揮して和泉を守る。その時の式守さんは最高にカッコいい、という、一種のシチュエーションドラマである。

和泉はやたらと不幸な出来事に遭遇するが、「不幸」とは看板が落ちてきたり物が飛んできてぶつかったり家にトラックが突っ込んできたりする、「ケガをする系」ばかりである点がミソ。だから式守さんが超人的な力を発揮すれば守ることが可能なのだ。ペットが死んだとか親が離婚したとかだと、いかな式守さんでもどうしようもないだろう。

二人は公認のカップルなのだが、ちょっと髪にさわったりしただけで真っ赤になってしまうほど純情。高木さんや佐伯さんと同じく中学生なのかと思ったら、高校生なのだそうだ。デートの時に手をつないだりしないのだろうか? 普段思う存分触っていれば、いちいちドキドキしたりしないと思うのだが……

「可愛いだけじゃない」というからには、とにもかくにも可愛くなくては話にならない。まあ可愛いんだけど、可愛らしさを表現るために演出が過剰になっているのが気にかかる。つまり、髪に触っただけで赤くなったり、料理が下手なくせにわざわざお弁当を作ってきたりするようなところだ。そもそも女子が「彼女アピール」で料理をするという考え方自体がどうにも古い。古風な女というわけか……

1巻だけでいいかな、と思ったが、基本は毎回読み切りのはずの作品なのに、1巻の最終話が続きものになっていた。これはズルイ。



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「はじめの一歩」21 - 25

はじめの一歩(21) (講談社コミックス)

はじめの一歩(21) (講談社コミックス)

はじめの一歩(22) (講談社コミックス)

はじめの一歩(22) (講談社コミックス)

はじめの一歩(23) (講談社コミックス)

はじめの一歩(23) (講談社コミックス)

はじめの一歩(24) (講談社コミックス)

はじめの一歩(24) (講談社コミックス)

はじめの一歩(25) (講談社コミックス)

はじめの一歩(25) (講談社コミックス)

当初は単行本一冊ずつ60巻までコメントしようかと思ったが、以前、少年マガジンを毎週買って、その感想を毎週書いていた時に、「はじめの一歩」についてもほぼ毎回コメントしていたから、繰り返すのはやめる。

改めて読み返してみて、やはり面白い漫画だなあ(少なくともある時期までは)ということを再認識した。

その面白かった時期に、非常に残念だったのは、主人公の幕の内一歩が少しも強く見えないことである。一歩は日本タイトルに挑戦するまでは無敗で、しかもすべての試合をKO勝ちで昇ってきたボクサーであり、少なくとも同期・同世代の中ではずば抜けている、はずである。事実、口頭では「フェザー最強の拳」をはじめ、最大最高の称賛をされるが、いざ試合が始まってみると苦戦の連続で、あんまり強く思えないのである。

これはスポーツ漫画の宿命で、主人公があっさり勝ったら面白くない。だから強い相手とぶつかり、苦戦するが、困難を乗り越えて勝つ。その時は、頑張ったな、と思うのだが、あとから考えると、あんなに苦戦するということは、主人公はあまり強くないんだな、と思えてしまう、というのはよくある話である。

「はじめの一歩」の場合は、ライバルが一歩より強いために一歩がかすむのが問題だと思う。

一歩は新人王になり、10位にランクされる。そうしたら5位の沖田から対戦相手に指名され、いきなり上位者と!? と周囲に驚かれたが、勝てば一気にランキングを駆け上がれると受諾。その後A級トーナメントを勝ち抜き、タイトルコンテンダーとなる。ここまで、一歩は最短最速の道を歩んできたはず。

しかし、東日本新人王の決勝で一歩に敗れた間柴は、これで後退し、さらに階級を上にあげたにも関わらず、一歩と同時期に日本タイトル挑戦、これに勝って先にチャンピオンになる。なぜ間柴に追い抜かれる?

日本新人王戦で一歩に負けた千堂武士は、その時点ではランキング入りできない。あとから一歩を追いかけてきたのだろうが、A級トーナメントには参加しなかった。これでさらに一歩との差が開いたはずだが、トーナメント終了後の時点で、ランキング1位が一歩、準優勝のヴォルクが3位で、千堂武士が2位になっている。何をどうするとこんなことをが起きるのか? 

伊達英二が王座を返上したら、1位と2位で決戦をして(あるいは1~4位でトーナメントを行なって)王者を決めればいいと思うのに、一歩を差し置いて2位と3位が王座をめぐって戦うというのもよくわからない。だから千堂が先にチャンピオンになり、一歩が挑戦者として挑むというのが不思議。この辺で、一歩が弱く感じられるようになるのだ。

千堂も間柴も、今後とも一歩のライバルとして長く引っ張っていくつもりで、常に一歩と同レベルで進んでいくということにしたいのだろうが、とにかく直接対決で負けているのだから、一歩二歩後退したところから虎視眈々と上を狙っているということにすればよかったと思うのだ。



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「はじめの一歩」16 - 20

はじめの一歩(16) (講談社コミックス)

はじめの一歩(16) (講談社コミックス)

はじめの一歩(17) (講談社コミックス)

はじめの一歩(17) (講談社コミックス)

はじめの一歩(18) (講談社コミックス)

はじめの一歩(18) (講談社コミックス)

はじめの一歩(19) (講談社コミックス)

はじめの一歩(19) (講談社コミックス)

はじめの一歩(20) (講談社コミックス)

はじめの一歩(20) (講談社コミックス)

僕は、森川ジョージが物真似ばかりしている、ということが言いたいわけではない。様々な漫画表現も、元をたどれば誰かが考え出したものであろう。ボクシングの迫力、スピード感、緊迫感、そうしたものをいかに紙の上で表現するか。先人の表現に学び、受け入れ、いいものは取り入れ、自分のタッチを加え、バリエーションを増やしていく。

それは当然のことであり、そのようにして漫画は発展してきたのだ。これは強調しておきたい。

「はじめの一歩」は人気漫画であり、いろいろな人がいろいろなことを語っているが、先行作品とのつながりについては、寡聞にして目にした覚えがないため、ここで自分が指摘した次第。ボクシング漫画以外でも、これはあれではないかと思ったものもあるが、それは割愛する。



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「はじめの一歩」11 - 15

はじめの一歩(11) (講談社コミックス)

はじめの一歩(11) (講談社コミックス)

はじめの一歩(12) (講談社コミックス)

はじめの一歩(12) (講談社コミックス)

はじめの一歩(13) (講談社コミックス)

はじめの一歩(13) (講談社コミックス)

はじめの一歩(14) (講談社コミックス)

はじめの一歩(14) (講談社コミックス)

はじめの一歩(15) (講談社コミックス)

はじめの一歩(15) (講談社コミックス)

「明日のジョー」や「がんばれ元気」を元ネタとするであろう箇所は容易に探せるし、細かく見ればまだありそうではあるが、もうひとつのボクシング漫画「リングにかけろ」からはほとんどない。

当初は皆無かと思っていたが、一か所あった。

宮田くんが間柴に負け、タイ遠征した時、控室でウォーミングアップをすると、そのフットワークが華麗で周囲の人が目を剥くシーンがある。

パンチに威力がありそうだ、というのは見せやすいが、フットワークが「華麗である」ことを一枚の絵でパッとわからせるのは難しい。これを、宮田くんの周囲に円環を転がすことで見事に表現しているが、この手法は車田正美が「リングにかけろ」で始めた表現である。

車田正美が開発した表現手法は、そのほとんどが車田正美一代限り、誰も真似できないと言われているが、これはうまく受け継いだなと思う。
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「はじめの一歩」6 - 10

はじめの一歩(6) (講談社コミックス)

はじめの一歩(6) (講談社コミックス)

はじめの一歩(7) (講談社コミックス)

はじめの一歩(7) (講談社コミックス)

はじめの一歩(8) (講談社コミックス)

はじめの一歩(8) (講談社コミックス)

はじめの一歩(9) (講談社コミックス)

はじめの一歩(9) (講談社コミックス)

はじめの一歩(10) (講談社コミックス)

はじめの一歩(10) (講談社コミックス)

日本新人王準決勝の間柴了 vs 宮田一郎で、足がほとんど動かないのに気迫で間柴に立ち向かう宮田の姿は、矢吹丈ホセ・メンドーサに対し向かっていく時の姿そのまま(タッチも似せている)。これは「明日のジョー」終盤の世界タイトルマッチの一シーンであり、読んだことのある人なら誰でも思い当たるところだから、わざとそれとわかるように描いたのだと思う。

その前に、けがのため「試合を続ければボクサー生命に関わる」として棄権するよう薦めるセコンドに対し「あいつが待っている……」と言って試合続行を選択した宮田は、重いパンチドランカーに冒されているからと試合を中止するよう進言する白木葉子に対して「ホセ・メンドーサがオレを待っているんだ」と言ってリングにあがった矢吹を彷彿させる。「このあたり、ちょっとジョーを入れますよ」と宣言しているのだ。

一方、「がんばれ元気」は気づかなかったが、よくみるとこれもあちこちにある。これは一歩と千堂の最初の対決の前、千堂の試合のビデオを鴨川会長が一歩に見せ、試合を思いとどまるように言うシーン(Round 93)。
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こちらは「がんばれ元気」で、全日本チャンピオンの皆川のぼるが世界七位の堀口元気と戦うことになるが、のぼるの所属ジムの会長が堀口の試合のビデオをのぼるに見せ、挑戦を取り下げるよう説得するシーン。
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絵柄が森川ジョージのものではなく、意図的に似せているようにも思える。しかし、「がんばれ元気」の中でも言われなければ誰も覚えていないようなシーンであり、そこはちょっと疑問である。小山ゆうのパンチの表現に感心して、一度自分でも同じことをやってみたかった、ということなのかも知れない。

その千堂 vs 一歩(一回目)で、千堂は一歩の強打をものともせず、一歩を攻め続けるが、実は既にその時は気絶しており、休憩時間が過ぎても意識が戻らずKO負けとなった。一歩の側からすると、打たれ続けて圧倒的に不利な状況だったのに勝ってしまったということになるが、これは堀口元気と海道卓のタイトルマッチに酷似している。

また、自分を慕い、尊敬してくれていた山田直道(ハンマー・ナオ)の挑戦を受けてタイトルマッチを行なう際、明らかに格下の相手でありながら鬼になり切れず、ずるずると試合を長引かせたところは、幼馴染みである皆川のぼるの挑戦を受けた堀口元気と類似のパターンである。

一歩がリカルド・マルチネスのスパーリングの相手になり、何もできずに終わるシーンは、堀口元気が関拳児のスパーリングの相手を務めた時を彷彿させる。もっとも、勢いのある新人ボクサーがチャンピオンの練習相手になったら、だいたい同じようになるか?

飯村真理(ライター)は、桐島玲子(フォトグラファー)的ポジションだ……とまで言っては、いささかこじつけの感が過ぎるか。



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