鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

短編の無断再録は詐欺行為

新津きよみは、入手できる本はすべて入手したし、新刊が出ると必ず買うことにしている作家である。超ベストセラーはないが、息の長い作家である。

本書は6月の新刊。新津きよみは、長編にもいいものがあるが、短編でこそ本領を発揮する作家だと思っている。楽しみに読み始めたところ……3編目くらいを読んで「おや?」と思い、5編目くらいを読んで「これは!」と思った。以前に読んだことがあるのだ。それで、過去の短編集と首っ引きで確認したところ、既に文庫で刊行されている短編集から抜き出した選集になっていることが発覚した。

選集がいけないというのではないが、そうしたことがどこにも書いていないのは問題だ。本の裏表紙には簡単な内容紹介があるが、本来ここに記すべきことである。巻末には著者のあとがきがあるが、そこにも触れられていない。各作品の初出一覧があるが、初出のみで収録された単行本名がない。こういうのは詐欺ではないのだろうか。もっとも、途中まで気付かなかったというのも情けない話ではあるのだが。

出版不況だなんだと言われるが、こうした行為が出版物に対する信頼感をなくさせていることに、出版側は早く気付くべきだ。そんなことより、現在入手できない「ヴァージン家族」(講談社ノベルズ、全2巻)や「いとしのボディガードさま」(頚文社コスモティーンズ)、「誘われてアクトレス」(角川スニーカー文庫)の再刊や、いまだに文庫化されていない「女監察医・叶理香子」(1991年)、「純白の殺意 グルメライター水沢風味子・周富徳の殺人レシピ」(1994年)、「緩やかな反転」(2003年)の文庫化を実現してほしいものだ。

指先の戦慄 (角川ホラー文庫)

指先の戦慄 (角川ホラー文庫)