鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「中川いさみのマンガ家再入門」2

一色まことは、「花田少年史」「ピアノの森」などの作品で知られるが、謎の漫画家だ。本名も生年も公開していない。男か女かもわからない(Wikipediaでは女性と断定されているが)。

名作「ピアノの森」はたびたび長い中断があり、完結までにかなり時間がかかった*1。単純に遅筆なのか、病弱なのか、それはそれで心配だけれども、作品の方向性で編集部と揉めたというまことしやかな噂もあり、気になっていた。が、確かめるすべもない。

中川いさみのマンガ家再入門」に一色まことが登場していると知り、すぐに買い求めた。インタビュー記事なのだが、なかなか興味深い。自分が中川いさみの作品を買うことはないと思っていたが、このような形で入手することになるとは、自分でも驚いている。

一色まことは、もちろん絵もうまい、話の作りもうまいのだが、子どもを描くのが本当にうまいと思う。「ピアノの森」で言えば初期のカイ(やキンピラ)、「花田少年史」の花田一路など、子どもの感情の起伏や表情の変化をうまくとらえており、しかもそれを可愛く描いている。こうした能力はもちろん本人の資質や努力もあろうが、どういうきっかけや経緯でそれを磨くことになったのかにはずっと興味があった。

本インタビューで、「『花田少年史』は私の中ではあこがれの家庭」「あれだけ堂々と安心してワンパクでいられる家庭ってすごい」と言っているのを見て、何か少しわかった気がした。上述の「子どもたち」は、傍にいる大人にとっては腹の立つ言動を繰り返すわけだけど、それが読者にとっては可愛らしく見えるのは作者の憧れが詰まっているからなのか。

(2019/9/24 記)


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*1:単行本全26巻は、現在の基準ではさほどの長編とはいえず、休載がなければ週刊連載なら4年、隔週連載でも8年で達成するが、実際には17年かかった