鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「1・2の三四郎」2、3(パロディ解説)

クラブ祭が始まると、実況を新聞部のトミ子が担当する。この「実況」は小林まことの素晴らしいアイデアだったと思う。今何が起きているのか、もちろん漫画の場合は絵で表現するわけだが、細かくて表現し切れないところやいわゆる「行間」を埋めるため、補足説明が必要になる。普通のスポコン漫画だと、試合に出ないチームメイトや見ている観客の中に、やたらにうるさい人がいて、逐一解説をしゃべり続けるか、地の文で表現することになる。スポコン漫画における一種の「様式美」であるが、不自然極まりない。

そこを、テレビ中継のようにクラブ祭でも「実況担当」を置くことにより、不自然でなく試合の経過を語り、解説をさせることができたのである。しかも、それだけではない。トミ子の語り口は、当時新日本プロレスの実況を担当していた古舘伊知郎を模したもので、漫画としてのパロディというより、トミ子がごく自然に(当時大人気だった)古館の口調に影響を受けたか、もしくは、実況を担当することになったトミ子が、試合の興奮と感動を伝えるのにどのようなしゃべり方をすればよいかいろいろ研究した結果、古館式がよいと判断して真似をしたか、いずれにしてもトミ子のセリフは、単なる試合展開の解説というだけでなく、試合を盛り上げるために効果を発揮しているのである。

今の若い人には想像がつかないかも知れないが、この漫画が連載されていた当時の「大人」が子供の頃には、テレビというものはあまり一般的ではなかった。物心ついた時に家にテレビがあった、というのは恐らく自分らの世代である。そして様々なスポーツをテレビ中継で見ることが当たり前になると、画面で試合を見ていても、アナウンサーが展開をこと細かに説明してくれるのが当然のこととして受け入れられるようになる。だから、このトミ子式の「解説」は極めて自然に受け入れられたのではないかと思う。

当時、自分たちの周りでも、この「おーっと」という言い方がとても流行ったが、古館の言い方が流行ったというより、「1・2の三四郎」を読んで知った、という人の方が多かったのではないか。だって、いくらプロレスが人気があるとはいえ、プロレス中継を熱心に見る層は限られていたと思うのである。


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(2020/5/6 記)