鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「1・2の三四郎」柔道編(その1)

「1・2の三四郎」は小林まこと史上の最高と最低が同居している不思議な作品である。デビューから全開で突っ走って来てあっという間に息切れしてしまったということだろう。失礼な言い方ではあるが、柔道編の後半から絵がどんどん劣化していく。が、ストーリー的には柔道編の最初から迷走が始まる。

前回書いたように、ラグビー編のいいところのひとつは、ストーリーがシンプルで話の展開が早かったことである。とにかく早く試合結果を書いてしまいたい、という気持ちだったのではないか。が、大人気作品であり、まだしばらく連載は続きそうだということを意識して、話をふくらませたのか?

第一は亜星の登場である。柔道の強力なライバルであり、また志乃をめぐっての恋敵でもあるわけで、そういう存在を早々に登場させたのはよいのだが、服部に命じて志乃を襲わせたのは亜星だから、亜星とは口を利くなと三四郎が志乃を殴りつけたのは、なんだったのだろうか。志乃のために停学に追い込まれた服部は恨みがあろうが、亜星は志乃に恨みはなかろう。その上相思相愛になったわけで、もし何か仕掛けたければ他人の手を煩わせず自分でやればいいのである。何を根拠に三四郎が騒いだのかはわからない。ただし亜星が下越番長連合の影の総長だという想像はなぜか当たっていた。

この「影の総長」という設定がその後何に関係していくのかというと、実は何も関係しない。そもそも三四郎は亜星と試合をしないのだ。意表を衝かれたというか、完全に肩透かしを食らった形である。以後本作にも続編にも亜星は一切登場しない。華々しく登場したものの、尻すぼみもいいところ。扱いに困ったということだろうか。

もうひとつ、三四郎の両親が登場する。これまでは三四郎は姉と二人暮らしだということが触れられた程度。死別ではなく少なくとも母親は生きているらしいことが示唆されるセリフはあったが、それ以上突っ込まれることはなかった。が、修学旅行先で父親とニアミス、母親ともニアミス(あまりニアではないが……)。身勝手な両親のためにどれだけ苦労したか、厭な親戚に頭を下げたり、姉の幸子が結婚を諦めたりする描写がある。学園漫画なのにここを深掘りするのはかなりの脇道なのではないかと連載をリアルタイムで読んでいた時も、違和感を持っていた。オチのないまま伏線が重ねられ、この件も不完全燃焼である。


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(2020/5/13 記)