鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「1・2の三四郎」柔道編(その2)

ストーリーのメインは、ラグビーをやめて柔道を始めた三四郎が、新たなライバルと出会い、試合を勝ち抜いていく、という部分だろうが、面白い構成が見られる。藤見高校は優勝候補の強豪であり、主将の稲毛とは市民大会での対戦から始まる様々な因縁があって、てっきり決勝で当たるものだと思っていた。が、なんと一回戦で激突するのだ(もちろん三四郎たちが勝つ)。

これは、市民大会の時点では三四郎らは稲毛には及ばず、一応稲毛と張り合って努力したけれど、インターハイの時には稲毛を超える力をつけていたこと、そして稲毛以上の力を持つ相手との戦いに出ていくということを示したものなのだと思う。

また、団体戦では優勝するものの、個人戦では伏兵・金田の登場で三四郎が一回戦負けというのも意外だったが、団体戦で予選からはじまって一・二・三回戦、準決勝、決勝と描いて、また個人戦でそれを繰り返すのを嫌ったのだろう。ダラダラ引き延ばさない、ていねいに描くところとコントラストをつけ、省くべきところはばっさり省く方針は斬新だった。

しかし、せっかく団体では地区優勝したのに、県大会を辞退してしまったのは納得がいかない。県大会での優勝を目指すと、物語の前半では二回も述べられているのに。そのために亜星との対戦がなくなったのだ。

参豪以外は高校三年生になってから柔道を始めた素人集団であり、またこの大会のあとも柔道を続ける気のある者は(参豪を除けば)誰もいないので、地区優勝くらいがいい線でこれ以上はやめた方がいいと判断したためか……と想像するが、物足りなさが残る。

また、個人戦三四郎の一回戦のみでいきなり表彰に移るのはいくらなんでも省き過ぎだ。三四郎に勝った金田のその後の試合、殊に柳との決勝は見てみたかったし、軽量級で優勝した参豪の試合が一試合も描かれなかったのも、いくらなんでも寂しい話である。その割に、試合の合間にさまざまなギャグが詰め込まれているが、こうしたギャグこそいらなかったのではないか。ラグビー編では試合の後半は一切ギャグが入らない。それが魅力だったはずだ。

天竜学園は、先鋒・三四郎、次鋒・虎吉、中堅・馬之助、副将・岩清水、大将・参豪で団体戦に臨む。この布陣はまともである。部の中心である三四郎が先鋒、唯一の柔道経験者の参豪が大将。あとも当て嵌めていくと、自分が監督でもこういう構成になるだろうなと思う。問題は対戦相手である。

主人公の三四郎と対戦するため、稲毛も柳も先鋒で出てくるが、いくらなんでもおかしい。藤見高校も黒崎高校も、稲毛・柳は大将だろう。稲毛は三四郎と因縁があるから予選を見て先鋒を買って出た、とも考えられるが、柳は三四郎など問題にしていないはず。こんな小細工をする必要はないのだ。

柔道の試合の描写にも不満は残る。ただしスポーツ漫画を読んでいて、手の位置が違う腰の動きが変だと一々言っていたらきりがないから普通はそういうことは極力気にしないようにしている。が、これだけは言いたい。柳の必殺技「腕取って逆回って体落し風投げ」だが、投げている途中でつかんでいる相手の腕が変わるのはなんとしてもおかしい。

黒崎高校の二回戦、柳は山下泰裕太と対戦するが、柳は山下の左腕をつかんで投げている。が、畳に落ちた瞬間はつかんでいるのは右腕になっている。この早業は引田天功もかくやというほどである。この時は描き間違いかと思った。事実、準決勝を前に部員と稽古をしている時は、相手の左腕をつかんでそのまま投げている。が、三四郎との試合では、またしても左で投げて空中で瞬間的に右腕にスイッチ。作者が気付いていないわけはないと思うが、なぜこのような事態が起きたのかは不明である。

ちなみにこの技は、要は逆一本背負いなのだと思うが、なぜ周囲が柳のオリジナル技だと思ったのかも不明。当初、空中で手を持ち替えるのが柳独自の工夫なのかと思った。

さて、団体戦は棄権、個人戦は一回戦負け。団体戦では地区No.1の柳に一本勝ちしたとはいえ、その柳も個人・団体とも優勝できず全国どころか県大会への出場すら叶わず。結果として、三四郎は柔道ではたいした結果を残すことができなかった。これで三四郎は、ラグビーでも柔道でも、大学や実業団に進むことはほぼ絶望となったところで柔道編は終わる。


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(2020/5/15 記)