鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「1・2の三四郎」プロレス編(その5)ストーリー展開編

桜五郎は10巻で登場。塚原への挑戦を名目に塚原の留守に練習場へ殴り込み、三四郎と出会う。翌日の試合でも乱入し、これを契機に三四郎と五頭の因縁ができる。その後、桜はしばらく三四郎らを育てることに専念し乱入は控えていたが、塚原が桜の家を訪ねてきて二人が実は幼なじみの仲良しだったことが判明。しかしタッグでのチャンピオン獲得から仲たがいすることになったいきさつが語られ、塚原は桜とタイトルを懸けて闘うことを正式に表明。このシリーズで三四郎らもデビューし……と、さんざん因縁があって、三四郎は新人タッグチャンピオンを獲得。そしてついにメインエベントとして塚原と桜が激突!!

……するのだが、この試合はわずか一コマで終わりである。延々単行本にして10巻にわたって引っ張ってきた因縁試合がたったの一コマとは、読者を舐めているのか。ここまで読み進めてきて、がっかりした読者は多かったのではないか。塚原が勝つのも、桜が引退するのも、新東プロへ復帰するのも、なんとなく想像したことであり、それはそれでいい。しかし、そんなことをセリフで説明しなくていいから、試合を描いてほしかった。三四郎・成海とオズマ・ノーラン戦のように、白熱した試合を延々と描かなくてもよいが(描いてもよいが)、せめて週刊誌で二週分くらいは試合経過を描くべきだったのではないか。

さらに言うなら、その前の桜・エリック戦も描くべきだった。われわれは、桜のオッサンが三四郎らとスパーリングをしているところや、乱入しているところはさんざん見ているが、試合しているところは全く知らない。新人の三四郎らよりは強くても、長く実戦から遠ざかっている桜は、本当の一流どころと比べてどのくらい強いのか。エリックも塚原のタイトルに挑戦するほどの強者であり、これを屠るところを描けば、塚原との決戦はさらに盛り上がったと思うのだが。

三四郎の試合にしてもそうだ。三四郎・成海と富山・山口戦が描かれなかったのは納得がいかない。富山・山口はオズマ・ノーランに優勝させないために新東プロが送り込んだ優勝候補筆頭で、五頭・柳よりはるかに強いという下馬評だった。五頭・柳に勝った三四郎らが、格上相手にどのように闘うか、読者は興味深々だったはず。それをたったの一コマで済ますとは……。それだけではなく、準決勝の相手、ジュノ・ルパン戦も、能書きは長かったが試合そのものはやはり1ページで終わり。塚原のテレビ出演や三四郎の雑誌インタビューなどのギャグシーンはていねいに描くのに、肝心の試合を飛ばされては、不完全燃焼もいいところだ。

父親を登場させたのも、話を広げ過ぎだと言いたいが、柔道編であのような形で父親を描いてしまったので、伏線を回収しておきたかったのだろう。しかし、父親の愛人(?)や妹まで登場させたのはいくらなんでもやり過ぎだろう。矢吹丈の世界タイトルマッチで少年院時代の仲間が観客席に姿を見せた時は感動したが、父に妹にさらに母親(明言されないが、恐らく)まで登場しても、読みたいのはそこじゃないんだよと思う。

4巻で張った伏線なんか忘れて、父親・一二郎は出演させる必要はなかったと思うが、しかし、この一二郎と工藤先生の会話は妙に印象に残っている。なかなかに感動的だ。

一二郎「あなた幸子のダンナかな……」
工藤先生「いえ……お父さんの許しがいただけたら……結婚します……」
一二郎「そうですか……幸せになってください」

そしてそのまま臨終……(ではなかったけれど)。



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(2020/5/26 記)