鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「ブラック企業の社員が猫になって人生が変わった話」1

  • 清水めりぃ「ブラック企業の社員が猫になって人生が変わった話」1(コミックエッセイ)

2019年2月15日KADOKAWA刊。

猫漫画に外れなし、というが、本書はその中でも異彩を放っている。なんというか、「尊いです」としか言いようがない。

ある日突然、モフ田くんは猫になってしまった。そのことを上司に報告したが「出社しろ」と言われたから会社に行った。以後、これまで通り普通に仕事をしているが……

猫化したことに大きな疑問を持たず、なるようになると考えるモフ田くんだが、こうした思考自体が既に猫的である。

中身は人間なのだが、単に見た目が猫だというだけでなく、モフ田の行動はいちいちが猫的であり、かわいく、癒される。

こんな人(猫)が会社にいたら、社員はそりゃ癒されるだろうなあ、と思う。そんな会社に入りたい。



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「不思議の国の千一夜」1~3

  • 曽祢まさこ「不思議の国の千一夜」1, 2, 3(なかよしコミックス)

「なかよしデラックス」1980年1月号より掲載された作品。

昔から気になっていた作品だが、全11巻のため、全巻揃えるのも大変だなあと敬遠していた。実は3巻でいったん完結し、4巻は番外編、5巻以降は続編だと知り、それならまず3巻まで買えばいいということになった。

「王子」のセブランは、王位を狙う叔父・ダロスの陰謀にうんざりし、城を出てヘンデク・アトラタンという神馬を探す旅に出るファンタジー。幼少の頃から鍛えた剣の腕と度胸、そして美貌を兼ね備えた王子と神馬ヘンデクの冒険譚は、40年以上も前の作品だから、異世界転生もないしスライムもゴブリンも出て来ないが、とてもわくわくハラハラする。

子どもの頃に読んだ童話や神話に出てくる話をベースにひとひねりし、さらにユーモアと自己ツッコミが満載の楽しい物語である。

「王子」とカッコ書きにしたが、セブランは女である。王様が妃に、世継ぎたる男の子を産め、女だったら殺すと言ったため、実際に生まれたのは女だったのを男と偽って育てたのだ。それが理由なのか、もともとの素養か、セブランの(今風に言うならば)性自認は男であり、カッコいい男を見てもなんとも思わない代わりに可愛い女を見るとときめいてしまうのだ。

見かけは男だが身体は女、しかし心は男、という人物を主人公にするのだから、相当に先進的である。最後は心に合わせて性転換をして男の身体を手に入れ、旅先で知り合った女性を妻とし、城へ戻って王位を継ぐところで3巻が終わる。

のちの曽祢まさこに見られるような憂いと哀愁成分こそ薄めだが、傑作と言える。



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「JJM 女子柔道部物語」14(新刊)

  • 小林まこと「JJM 女子柔道部物語」14(イブニングコミックス)

2022年11月22日刊。発売日に入手。

ついにインターハイが始まる。今回から女子が正式種目となったが、女子団体は先鋒・中堅・大将の三人だけなんだと。だからニペイは出られないのか。

カムイ南は一回戦シード、二回戦から全員一本勝ちで駆け上がる。地区最大の強豪・極大高校も圧倒的な強さで決勝進出。ついに両者激突! ……で14巻は終わり。ようやく盛り上がって来たのに水を差された感じ。15巻が出るのは来春か。



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「王子様と司書」

  • 小川つぐみ「王子様と司書」(1話~7話)

2018年8月1日刊。表紙を含めて133ページ。

「魔法の最期」の作者・つぐみの他の作品を探したところ、「魔法の最期」以外は「小川つぐみ」名義で作品を出していることがわかった。さっそく本書を購入。期待にたがわぬ名作だった。

とある小国の王子シンは、飢饉が来ることを予測して父である王に進言するも、子どもの浅知恵だと耳を貸してもらえない。果たして飢饉は来て、民は苦しみ、国は弱体化して隣国の侵入を許し、属国とされてしまう。王は殺され、王子は捕らわれの身に。以後、司書という立場で城の資料の管理を担当しているが、実質は幽閉である。

民を救えなかったこと、自国を滅ぼしてしまったことを後悔し、また、この国の支配下になった旧領は、以前よりはるかに豊かになったと知って忸怩たる思いにとらわれ、将来に何の希望も持てないまま、死んだように生きていた。

そこへ、この国の第四王子のエリックと出会い……

BLだということを知らずに読み始め、すぐにそれと気づいて「アチャー」と思った。率直に言って私はBLが好きではない。だからBL漫画は持っていない。例外は「昨日何食べた?」だが、自分はあの作品はBLだとは思っていない。

しかし、ハグやキスのシーンも昔のような嫌悪感を持つこともなく読み進めることができた。このあたりは年を取ったということか。そして、真摯に読んでみれば、この話は必ずしもBLでなくても成立するのではないか、と思った。骨格がしっかりしているのだ。

エリックはシンの教えを受けて聡明な王子として成長。自分の治める土地として、シンの旧領を希望し、それがかなうとシンを参謀として連れていく。これによってシンは、旧領の民人のために尽くすという夢がかなう。

参謀としてシンを連れていきたいと願い出たエリックに、王が告げるのである。「それほど聡明な者を側に置くならば、お前は覚悟せねばならない。いつも隣で信頼に足る領主かを見定められることになる。善政を敷き、豊かにせよ。それが領主の心得だ」と――

こういう展開になるとは思わなかった。すごい。見事だ。



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「魔法の最期」

  • つぐみ「魔法の最期」

2018年10月23日刊。表紙を含めて74ページ。ちなみに扉・奥付・裏表紙はない(残念)。

もう4年以上も前、リリース直後に読んだのだが、ふと読み直して感動した。こんなすごい話だったのに当時は印象に残らなかったのか。

魔法使いが忌み嫌われている世界。魔法使いといっても、いわゆる「魔法」は人間の命を消費するので、先代が禁忌にした。そのため、迫害されても仕返しをすることができない。もとより彼女らはそんなことをするつもりはなく、病人やけが人の介護をすることで細々と生き延びてきた。

そんなある日、捨て子を見つけてしまった。魔法使いに育てられたとなれば、この子もただでは済まないが、見捨てれば死んでしまう……

三人の魔法使いも、男の子も、みなが常に「誰かのために」生きているところがいい。

アデルが若返った時、男の子と結ばれるのかと思ったが、そうではなかった。妻帯後、アデルと親しい関係を続けることを、妻が疑ったりしないところも良かった。そういう話ではないのだ。

ラストシーンは泣ける。



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「家族が欲しいストーカーの話」

2020年5月29日刊。約100ページあるが、後半はネームで、しかも本編とストーリーは何も変わっていないので、漫画の制作過程に興味のある一部の人以外の人にとっては50ページの本。

ストーカー女が対象の人の不在に家に忍び込むと空き巣狙いの強盗がいて、レイプされるという、なかなか気持ち悪い話だが、最後に救いがあってよかった。



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「あ~そぼっ!」

2019年1月11日刊。表紙を含めて83ページ。連作短編。全3話。

東京から田舎に転校してきた渋谷都(しぶや・みやこ)を、地元の山田豆子が遊びに誘う。メンコ・竹馬・川遊びなど、都会では知らない遊びを都が体験していく話。

メンコ、竹馬などは田舎でも今どき流行らないと思うが、作者が子どもの頃に遊んだ遊びをノスタルジックに紹介する話なのだろう。川で泳いだことはないが、メンコ、竹馬は自分も経験している。

ところで、主人公の都の性別が謎だ。いや、三話目で水着になるので謎は解けたのだが、冒頭の登場シーンですっかり逆に思い込んでいた。わざとミスリードを狙っているわけではないと思う。私の目がヘン?



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